004


誰の目にも触れることなく
ただ穏やかな日々を過ごしたかっただけ

そんなささやかな祈りすら無惨に踏みにじられ、突如として平穏は壊される。

人知れず小さな村外れに父と母と娘三人の家族が居を構えていた小屋に、兵士たちが押し入り無情なる刃を振るう。
人の世で許されざる猫の獣人ビーストマンとうら若き人の女性との間に育み産み出されたハーフの忌子という大罪を皆が怖れ弾圧に迫る。

老いと圧倒的人間たちの数に屈し、牙を折られ爪の指を切り落とされ長年捕虜として蔑まれた人生を送ってなお魂だけは明け渡さず服従を拒んだ。獣人ビーストマンとして。愛する女と何物にも代え難い娘の父親として。迫害から逃げ隠れてきた短い家族との数年であったが、願わくば妻子の先往く未来に加護があらんことを

何本もの凶剣に貫かれ、朱に塗れる床に伏して事切れる最期まで妻子を想う。

人一人がやっと潜り込める──ちいさな床下に掘った土穴に娘を抱きかかえ母セトラは呼吸と嗚咽を必死で抑える。愛しい雄の朱い滴りが顔に、服に床板を通して滲み落ちてくる。

逃げなければ。兵士たちが家から立ち去ってから、でもどこへ。先の見えない恐怖に身が震える

(逃げなければ──!)

腕に抱く、確かなぬくもりが己を叱咤するかのようその小さな手であらん限り服を掴んで離さない。そう立って、走るの

愛しいこの子を手放さないために



巨木から飛び降りて自分が今 肌着の襦袢しか着ていなかったことに気付き、ナマエは空中に落下しながらの状態でアイテムボックスから呼び寄せてみる

<防具転移トランス・ギア>

着ている襦袢が白く輝くとともに入れ替わり、普段着である布の半袖シャツと七分丈パンツに着替えクッション性に富むシューズで草地に降り立つ。間を置かず追従してくるアレクサンドルと共に西の方角へ向かう

「はっはっは!すっごい体が軽ーい!」

いくらでも走りこめそうな体の軽やかさに感動し、胸が躍る。

「アレクーそういや武器持ってないじゃんどうしたー?」

実際には両者凄まじい速度で走行しているのだが、そんなことは露知らず間延びした会話し合う

「人間相手に必要ねェだろ〜楽しみが減っちまう」
「そうかそうかー。けどそのままだとビックリして逃げられるかもだし人間に姿変えとけば?」
「そーさなぁ」

種族スキルによって獲得している<人化>を発動し、混合魔獣から成人男性の姿に変化する

「やっぱイケメン!」

サムズアップで息子をベタ褒めする。
大木の如く筋骨鍛え上げた体躯。彫りの深い西洋系の顔立ちにくせ毛ある黒髪からもみあげに髭へと豊かに生えそろい、真紅の虹彩と縦に割れた瞳孔が異形のそれと隠しきれてないがそれでもなお格好よさが留まることを知らず。許す!

「えっ何なに?惚れちまった?」
「てか服着てないじゃん!?」
「あ。そだった」

唯一 下半身にだけ装備していた心許ない腰布が走りながらはためている。際どい!際どいぞ息子!色んな意味で!

<下位道具創造>クリエイト・レッサー・アイテム

世話がかかる息子に手を焼かされるってこんな気持ちか?同じ半袖の布シャツに伸縮性に富むストレッチパンツを魔法で作成して着させる

「おお!有り難えっ」
「しょーがないなぁ〜」

 ああ 楽しすぎる

「──っふふ あははは!」

アレクとこんな会話ができるなんて
ああなんて楽しい異世界!

ナマエが大笑いしだしたのにつられ、アレクサンドルも同じく笑い出す。和気あいあいな空気になりながらも侵入者のことを思い出し常時発動型特殊技術パッシブスキルにある遠視の眼で探り

捉えたのは

必死に生にしがみつこうと
あがき もがいて

その小さな体で母親を守ろうとする


ネコ耳娘


急速に腹底が煮えくり返る激昂を、走行する足に込め一気に踏み抜いた地面が抉られ音を置き去りに距離を縮める。

子とともに母の命を刈り取らんと剣を振り下ろす瞬間の兵士目掛け、ドロップキックで蹴り飛ばす。

娘──フェリシアは夢でも見ているのか、凄まじい豪風と衝撃破に傷ひとつついていない、驚愕が思考を占めるなか目にする

夜陰を晴らす煌めき纏う金剛石の如き透き通る髪を揺らし、細身の体躯ながらなんて鮮烈な闘気。芯ある真っ直ぐな瞳が

「いいぞネコ耳娘!理不尽な暴力に死への恐怖を抱きながら尚闘おうとする、世界が神が突き放そうと私が見捨てたりしない!」

魂にも響く真に迫るこの人こそ

「手を掴め!ナマエ・エリクシールの名の元に運命を覆すその願い勝ち取ってみせろ!」

私たちの救い人──!

一筋の希望さえ潰え、死を前にして光明を見出す。フェリシアは差し出される手を

「何の真似だ貴様!亜人に手を貸そうなど正気の沙汰ではないッ歯向かうなら身分と財産を剥奪し化け物たちと一緒に収容所送りになってもいいのか!?」

「なるほど反吐が出る!」


ネコ耳こそ正義!




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