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二メートルを超す屈強な体躯は二足歩行を可能にした闘牛をベースにして。頭部には山羊の双角、金属輪のピアスを鼻に施している。大熊の如く巨体を支える硬く太い頑強な両脚を生やす下半身。尾には肉食恐竜を想起させる爬虫類の鱗があり、背骨に沿って鋭い棘が等間隔で生えて先端はハンマー状に硬い骨が隆起している。

「──アレクサンドル」
「応」

返事する口が確かに動き、言葉を発している。理性的な瞳でナマエを見つめ表情を動かし、凶悪に尖る爪に黒い獣の剛毛に覆われる大きな手が意外にも全く痛みを伴わない力加減でナマエを水中から引っ張りあげたまま

「全裸!!」

装備品の一切を外して水中に潜っていたことを思い出し、まさに生まれた姿のままを見られている異常事態!急速に羞恥心に襲われ叫ぼうと

「ほれ大将 早く服着ろ。一大事だぞ」

足が地に着く岸辺まで丁寧に運ばれ降してもらい、叫ぶタイミングを失って茫然自失するナマエの背中を爪で傷付かないよう掌でやさしく添えて支える

「おっ、ぉぉう‥」

なんだコレ。こんな大切に扱われたのっていつぶりや。

「ナマエ様」

背後から女性の声。未だ全裸のナマエにふわりと柔らかく、肌着の襦袢が羽織られ飛び上がる衝撃に勢いよく後ろを振り返る

「いかがなさいましたか?」

南の海をそのまま掬い取ったかのようエメラルドグリーン色の髪が結い上げられ、メイドの頭飾りホワイトブリムに綺麗に収まっている。着ている服もメイド服で身長は百七十センチほど健康的な肢体。冷静な性格の印象を持たせる理知的な顔立ちの美人

(そっちがいかがしたぁーッ!?)

叫ばなかったのが奇跡だ。この二人とも見間違えるはずがない。美人さんがカーリィナ=ジズでデカいモンスターがアレクサンドル!

どっちも私が作ったNPC!何が起きてる

思考回路がショートしそうな頭を、額に手を当ててナマエは視線の下で豊満な双丘に開眼する。

(この身体!ゲームの私のまま!?)

魅力的な要素を組み合わせて創造したゲームキャラの理想体型を、今この身が具現化している。美乳に引き締まったウエストすらりと一切無駄のない長い脚。それに18禁行為を絶対禁止としたユグドラシルシステムが己の全裸を見られたことにより完全崩壊しているではないか!
手元に表示されるコンソールも無ければGMコールも利かない!

まるで現実──!

黙り込んだまま静止しているナマエを傍で懸念そうに見詰めるアレクサンドルとカーリィナ。再度主人の名を呼ぼうと

「アレク、一大事ってのは?」

親しみ込められた略称。
その名で呼べるのは世界で唯一人

凛として纏う空気を一変させたナマエは背筋を伸ばし、真摯な瞳を相棒に向けて問う

ユグドラシルの続編先行体験版?今さら追加プログラム当てただとかそんな情報、運営側から発信されてなかった。一種の特殊イベントが発生したっていう可能性も捨てきれなくもないし、だったらここにても埒が明かない。

「応さ大将。てっとり早く先ず外を見てくれ」

人懐っこい笑みを浮かべ大事が起きてるというのにこの落ち着きよう。それは歴戦の覇者に相応しい余裕からくるもの──ユグドラシルでは何度も助けられた。自然と安堵が胸を撫でおろす

「ついてこい」

ナマエたちが今いるのは地底湖。
農場を主にして居住拠点を1から創り上げたナマエたちの家。ここで一体何が起きたのか分からない。地上へと続く回廊から夜風が頬を撫で現実味を帯びてくる、階段を昇りきり目の前に広がるのは

素晴らしい夜空

生まれて一度も見たことがない。透き通った空気に星を見えることさえ初めてである

「ここは──」

仮想世界なんかじゃない

「どういう訳か、ここら一帯丸ごとぜーんぶ森に囲まれちまってよ」

後ろに控えるアレクサンドルの言う通り。ナマエたちの家は元は海域周辺の土地を拠点にしている断じてこんな鬱蒼とした森に囲まれるなど有り得ない。

「これからどうするよ」

前に立つナマエの背中を見やり、指示を待つアレクサンドルとカーリィナ。

臆測が音を立てて崩壊していく。積み上げてきた常識が何もかも覆される未知の世界に降り立ったという実感が、頭で理解できず心で理解してしまう

──これが
普通の日々を送るヤツだったら
帰りたがってただろう。

でも普通って?

代わり映えしない毎日
同じことの繰り返し
色褪せる人生

それって生きてるって言えるのか

現実よ さよなら

私の帰りがなくても世界は廻る

「臣下よ。私の最も信頼する子たち」

力強い号令にアレクサンドルとカーリィナが表情を引き締め、片膝を付いてこうべを垂れる

「二人に問う!私に付き従うか」

「我らナマエ・エリクシール様に創造されし忠実なる僕。この身、この命運、最期まで貴女様と共に」

「世界の果てまでついてくぜ」


「ならば往くぞ。遅れるな」


最高に生きてるって言える





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