毎年わいわいと盛り上がるホグワーツのハロウィンだが、今年の盛り上がりは、例年以上だった。


「校長公認で悪戯が出来るなんて最高だね、パッドフット!」


「そうだな。今日ばかりは、何をしても、誰にも咎められない。」


そう、今年はハロウィンに合わせて、寮対抗の悪戯が行われているのだ。
それも、ダンブルドア公認で。
普段から悪戯ばかりしているこのふたりが、それを楽しまないはずがない。


「お、いたいた。」


そんなふたりの目にとまったのは、いつも悪戯を仕掛けているスネイプだった。


「よお、スニベルス。」


「……ポッター、ブラック。」


シリウスとジェームズの姿を認めた瞬間、スネイプの顔が険しくなる。
反対に、シリウスとジェームズは、この上なく楽しげな笑みを浮かべた。


「今日ばかりは、エバンズもナマエも、オレたちを止めれない。」


「そうさつまり、」


やりたい放題ってこと。
にやり、と笑ってふたりが杖を構えると、後ろから声を書けられた。


「シリウス。」


「ん?あ、ナマエ。」


「やあ、ミョウジ。」


「こんにちは、ポッターくん。」


振り返った先にいたのは、いつも悪戯を止めるナマエだった。


「またセブルスに悪戯するつもりなの?」


「おっとミョウジ、今日ばかりは、キミにも止めれないよ。」


「何たって"寮対抗"だからな。もちろん、お前だって例外じゃない。」


「へ?」


シリウスは杖を降ろし、ナマエに向き直る。
そして、意地の悪い笑みを浮かべて言った。


「Trick or Treat?」


ナマエがお菓子を持ち歩いてるなんて、思ってはいなかった。
ただ、さすがにいきなり悪戯をするのは気が引けたため、一応言っただけにすぎない。


ナマエはひくり、と引きつった笑みを浮かべてシリウスを見ている。
その様子を見て、スネイプはやれやれと溜め息を吐いた。


「え、あの、」


「持ってないのか?なら悪戯するしか、」


「はいどうぞ。」


にやり、と笑って伸ばされたシリウスの手に、飴が乗せられる。
驚いてその手の主を確認すると、そこには弟の姿があった。


「レギュラス!」


「…何だよ、これは。」


「飴です。見てわかりませんか?」


「そうじゃねぇ!オレは、何で飴を乗せたのか聞いてんだ!」


苛立ち、声を荒げるシリウス。
対するレギュラスは、動じることなく、しれっとした態度で答えた。


「兄さんが言ったんじゃありませんか。」


Trick or Treat、と。


「飴をあげたんですから、ナマエさんに悪戯はしないでくださいね。」


そう言って、ナマエを自分の方に抱き寄せるレギュラス。
シリウスの眉間に、しわが寄った。


「その手を放せ、レギュラス。」


「お断りします。」


ふたりが睨みあっていると、見かねたジェームズが声をかけた。


「そのくらいにしておきなよ、パッドフット。まだスニベルスへの悪戯が済んでない。」


「…ああ、そうだな。じゃあ、」


「待って、シリウス。」


再び悪戯を制したのはナマエ。


「今度は私の番よ。」


「は?」


「Trick or Treat?」


思わぬ発言に一瞬目を見開くが、すぐにナマエの真意に気づく。
何とかスネイプに対する悪戯を、阻止しようというのだろう。それなら、


「いいぜ、悪戯でも。」


「え、」


さっき悪戯できなかった分も含めて、思い切りからかってやろうじゃないか。


「ナマエの悪戯なら、大歓迎だ。」


何をしてくれるんだ?
にやり、と意地の悪い笑みを浮かべてそう言うと、ナマエは頬を赤らめた。


「…いいの?」


「ん?」


「悪戯、本当にしてもいいの?」


「あ、ああ。」


何だよ、何で赤くなってんだよ。
思わぬナマエの反応に、シリウスも頬を赤らめた。


「じゃあ、目、閉じてくれる?みんなも。見られてると、その、悪戯しづらいから。」


「な、」


シリウスは、後ろで「わお!ミョウジって実は大胆なんだね!」なんて言ったジェームズを、思い切り殴ってやりたくなった。


目を閉じてごくりと息を呑むと、ナマエが自分の手に触れたであろう感覚。
それだけで小さく肩が跳ねてしまうのだから情けない。そして、


「!」


ふにゅ、と唇に何かが触れる。


しかし、舞い上がりかけたシリウスの頭を現実に戻したのは、他ならぬナマエの声だった。


「…ごめんね。」


はて、ナマエの唇は、自分のそれと重なっているのではないのか。
不思議に思ってシリウスが目を開けるのと、


「インカーセラス(縛れ)!」


レギュラスとスネイプが呪文を唱えるのは、ほぼ同時だった。


「な、」


「いい格好だな。ポッター、ブラック。」


「まさか、こうも簡単に成功するとは思いませんでしたね。」


ようやくハメられたのだと気づいたが、シリウスもジェームズもしっかり縛られてしまっている。
ナマエを見ると、申し訳なさそうに眉を下げていた。


「ナマエ。」


後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには見慣れたプラチナブロンド。
シリウスとジェームズは、げ、とあからさまに顔をしかめた。


「ルシウス!見てたの?」


「ああ。もしもの時は、私が手を出そうと思っていたんだが、」


ちらり、とシリウスとジェームズを見て、ルシウスは笑みを浮かべた。


「どうやら私の杞憂だったらしい。」


「お前がナマエにくだらねぇことを吹き込んだのか!」


「勘違いをされては困る。この悪戯大会は"寮対抗"だ。協力するのは、当たり前のことだろう?」


くつくつと笑うルシウスに、シリウスは言葉を詰まらせた。


悪戯仕掛人であるシリウスとジェームズ相手に、悪戯で勝てるはずもない。
しかし、素直に負けを認めるなんて、スリザリンに属している者のすることではない。


「柔らかかったか?ナマエの指は。」


馬鹿にしているのであろう口ぶり。
シリウスは、眉間にしわを寄せて、ルシウスを見ずに言った。


「……質悪いぞ、ナマエ。」


「うん、ごめん。でも私、」


スリザリンだから。
にっこりと極上の笑みを浮かべてそう言うナマエに、またも頬を赤らめてしまう。
彼女の胸にあるスリザリンカラーのネクタイがこんなに恨めしく思えたのは、初めてかもしれない。


「優勝はスリザリンがいただく。グリフィンドールが負ける様を、そこで大人しく見ているといい。」


「くそっ…!」


ローブを翻してその場を離れるルシウス。
スネイプとレギュラスも後ろに続いた。


ああくそ、してやられた。
ナマエへの想いを隠しているつもりはなかったが、まさか利用されるなんて。
それも、ナマエ本人に。


情けない、とシリウスが溜め息を吐くと、ナマエがしゃがんで目線を合わせた。
てっきり、3人についていくのだと思っていたシリウスは、目をそらして、拗ねたような口調で言った。


「…何だよ。はやく行かないと、置いてかれるぞ。」


「うん。…ねえ、シリウス?」


「だからなに、」


ちゅ、とシリウスの頬にキスをするナマエ。
目を開けているから、今度は"悪戯"ではないことがわかる。
唖然とするシリウスに、ナマエは笑顔で言った。


「私、"悪戯"でキスなんてしないから。」


「……は?え、それってつまり、」


「じゃあね!」


最後に照れたように笑って、ナマエは3人の方へと走っていった。


「はは、やっぱりミョウジって大胆…パッドフット?」


「……」


「ああだめだ、聞こえてない。」



宙に浮かぶランタンが、
口を吊り上げて笑ってた。

(ねえジェームズ、シリウスが気持ち悪いんだけど。)
(言わないでやってくれるかい。彼は今、必死に状況を飲み込もうとしてるんだ。)



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