「寮対抗いたずら大会?」
「うん」
「嫌ですよ、何でそんな事やらなくちゃいけないんですか」
「いいじゃん、どうせレギュラス暇なんだから!」
「僕だって色々な事に思考を巡らせるという大切な任務が…」
「だってもう参加するって伝えちゃったし」

はっ、とレギュラスは柄にもなく大きな声を出す。今年はハロウィンパーティが中止されたと聞いて一人静かに喜んでいたというのに、そんなものが開催されるというのか。話の流れからすれば恐らく自由参加の行事なのだろう、それをナマエは勝手に彼の分も参加申し込みをしてしまったという。面倒くさい事を、とひとしきり呆れた後大きなため息をついた。

「セブルス先輩は」
「僕は参加しない」
「何でセブルス先輩の分は参加するって伝えなかったんですか」
「何か殺されるような気がして…」

ソファの上で足を伸ばし優雅に予言者新聞を広げるセブルスは何故だか「ざまあみろ」とでも言っているような表情を向けられて、先輩だというのに多少の苛つきを覚えた。

「参加したらレギュラスも楽しいかなと思ったんだけど…」
「お気遣いは嬉しいんですけれど、僕がそういう行事が苦手だと言う事はご存知でしょう」
「知ってたけど、みんなでわいわいできたらいいかなって思ったの!もう参加、参加だからね!」
「はぁ…」

参加すると言ったものを子供のような駄々こねで覆すのはナマエに申し訳ない。分かりました、と答えるとナマエは先ほどとは打って変わって楽しげな表情で笑う。この表情が見れたのなら少しくらいの面倒は良いかと思っていると、はい、と手に何やら渡された。

「何ですか、これ」
「いたずらセット」
「……足でも引っ掛けるつもりですか」
「……」

渡された袋の中に入っていたのは縄やワイヤーで、そこからいたずらと言うと縄やワイヤーを張って足を引っかける程度しか思い浮かばない。セブルスもちらりとこちらを見たが、不審がるような表情をして直ぐに新聞の方に目線を戻した。

「えっと…どのようなルールなんですか?」
「寮対抗で一番多く他の寮の参加者をいたずらで引っ掛けた寮が勝ち。ちなみにいたずら引っかかった人はもう他人をいたずら出来ないんだってさ」
「簡単ですね、手取り早くグリフィンドールのあの鬱陶しい人たち引っ掛けてしまいましょう」
「え、それって悪戯仕掛人…?」
「そうですよ、あの人達が一番の面倒な敵だと思いますから」

言ってる事が矛盾しているように感じたが、よっぽど自信があるのだろうか。レギュラスはうんうんと頷くと立ち上がって奥のテーブルにごっちゃりと乗った筆記用具類をごそごそと探し始める。
いっそあいつらは殺せ、と言うセブルスにナマエはし、っと言うと彼は小さく鼻息をフンと吐いた。

「それ、何時からですか?」
「六時から、三つの寮が全滅するまで」
「参加者はどれくらいなんです?」
「グリフィンドールは全員参加で、あとは三分の二くらいの参加者らしいよ。あと、これ参加者バッチ。付けておかなくちゃいけないんだって」

何かを探してきたレギュラスの胸元にバッチを付けてあげると、それを奇妙な物を見るような表情で見た。

「で、何探してきたの?」
「これです」

そう言って見せられたのは、羊皮紙と羽ペンだった。








*
休日の夜だというのにすっかり静まり返った校内をシリウスは静かに移動する。
こうしてトラップだらけの校内だが、足下や頭上に注意しながら歩けば移動は簡単だ。どいつもこいつも見え透いたいたずらばかり、つまらない。もっと華麗に、下らなくやるべきだと、どうでもいい自分の論理を展開する。
しかしここまで殺気に溢れている校内も珍しい。何たって優勝した寮の参加者は十回までの遅刻が認められるというのだからそれは本気にもなるだろう。絶対に負けられない。
しかし何故今日この時間にナマエは呼び出してきたのだろう。常々口説いて何時も後一歩の所で時間が来たり邪魔者が入ったりしてしまう事に困っていたのだが、まさか今日呼び出されるとは思わなかった。ようやく想いが通じたのだと思うと胸がいっぱいになる。
中庭に出ると、ケヤキの下に腰を下ろしているナマエが見えた。遠くから見ても可憐だ。そうだ、あの隣に座り肩を抱き、そして愛を囁くのだ。

「シリウス、来てくれたの」
「当たり前だろ」
「だって今危ないのに」
「そんなの俺にしてみればこどもだま」

シイイイイイ、と逆転する重力を感じて絶叫する。気付いた時には世界が反転していて暫く何が起こったか理解が出来なかったのだが、考えてみればこれはナマエにはめられたのだろうと直ぐに考えが及んだ。頭に血が上る感覚に呆然としながら視線を移動させると、申し訳無さそうにしているナマエが目に入る。

「ごめんねシリウス…」
「…兄さんがそんなに愚かだったとは……知ってましたけど」
「やっぱりお前か」

抑揚のない声でそう言うと諦めたようにため息をつく。自分があまりにも愚かだったという事に自分でも気付いたのだろう。哀れむような目をしながらナマエはシリウスの襟に手を伸ばすとバッチを取り外す。

「これで三つとれましたね、先輩」
「スリザリン優勝出来るかな」
「かもしれません」

三つ、という響きに違和感を覚える。

「あ、兄さん大丈夫です。一人じゃありませんよ」
「もしかして…」

何の魔法を掛けたか分からないが、レギュラスが隣の枝に向けて杖を振ると同じように逆さに吊るされたジェームズとピーターが現れた。想像はしていたものの実際に見ると自分の姿も含めて呆れたくなる。そろいも揃って三人共同じ手に掛かったというのか。どうりで仕掛けて来てから帰ってこないと思ったら。

「お前らもか」
「まぁね。だってナマエから意味ありげな手紙貰ったら期待しちゃうでしょうって」
「ごめん二人とも…」
「お前は悪くねーよ」

グリフィンドールはこの主に三人が厄介なだけで他はどうということもない。リーマスはこの大会に参加していないからとりあえずはこの三人だ。きっとやがてスリザリン持ち前の狡猾さで難なく勝つだろう。

「ナマエ、これ許してあげるから明日の夜デートしようよ」
「え!?」
「待てよジェームズ。抜け駆けか?」

逆さのまま口論を始めた二人にナマエは慌てる。二人の間に居るピーターが哀れだ。ナマエが何か言おうかと口を開いた時に、隣で暫く黙っていたレギュラスが一歩前に出て口を開く。

「先輩方、勘違いしてませんか?」
「え?何を」
「ナマエ先輩は誰のものでもないと思ってませんか」
「だってナマエは今フリーだろ?」

シリウスの言葉を聞いてナマエはちらりとレギュラスを見るとやはりにやりと笑っていて、止めようとしたがもう時既に遅かった。

「違いますよ、ナマエ先輩は生憎僕の物です」

ナマエはひっと息を呑んで声を上げて顔を赤くする。何でこんな所で、とか何でこいつらの前で、とか色々思う所はあったけれどこの際余計な事はもはや言わない。ね、と視線を向けるレギュラスに僅かに縦に首を振ると笑って頭を撫でられた。何時もはツンケンするくせにこういう時に何故こんなに甘くなるのか不思議に思いながらもただそれが嬉しかったから俯く。

「おいおい、聞いてねえぞレギュラス」
「兄さんに言う義理ありませんもん」
「僕も聞いてない!」
「ポッター先輩にも言いませんよ別に」

そう言うと、二人は逆さのまま大きなため息をつく。ピーターは最早苦笑いをしているだけだ。

「ハロウィンだってのに逆さ吊りか」
「しかも吃驚する程華麗に振られたしね。君の場合は弟に取られてるし」
「傷口に塩を塗るなよ」

シリウスとしては泣きたい気分だろう。トリックオアトリートなんてものではなくトリックオアトリックだ。選ぶ事すら出来ない。こうして吊るされているよりも、ナマエがレギュラスの恋人だという事を知らされた事実の方がよっぽど悪質ないたずらだ。

「レギュラス、俺たちはどうすんだ」
「何処かが優勝するまでそのままですよ」

じゃあ僕たちは談話室帰るので、とナマエの手を引きながら去ってゆく二人の姿を逆さのまま見送った。

「ピーター」
「え、何…」
「リーマスは」
「この時間は監督生だから見回ってるらしいけど…」
「ああ、じゃあその時まで待機だな」

静かな中庭には、三人の情けないため息が響いた。



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