「さて、運び屋の山田花子さん。なんで俺が君のこと知っているか教えてあげようか?」

「いえ、結構です。…帰ります」

「なら、帰ればいいじゃないか」

それができないから、言っているんです。いつの間にか捕まれていた腕を見つめながら呟く。


本名までバレているなんて最悪だ。―…いや、本名は依頼人にすら教えてない。ならば、なぜこの男が、

「…私を知って、いる?」

「やっぱり気になる?高くつくよ。まあ、特別に少しだけ教えてあげようか。


山田花子。運び屋である通称"兎"。18歳の高校3年生。毎週火曜日を定休日と称して、池袋で買い物をする。去年の春頃から運び屋の復職として、代理屋としても働き始める。一般の生身の少女が出来る範囲、を基準に代理を勤めてるんだよね?後は、家族のことも、友達のことも、なんでも知ってるよ。

賢い君なら分かるよね?まだ聞きたい?」

赤い二つの目が私を見つめて言う。


ああ、ようやく分かったよ。
こいつが関わっちゃいけない新宿の情報屋"オリハライザヤ"なんだ。

「さて、兎に会えたことだし、俺は帰ることにするよ。

またね」


折原臨也に腕を離されてもなお、私はその場から動けずにいた。…またね、か。



( もう遅い )


11.03.04