頂きもの・捧げもの | ナノ


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部屋に設置されている鏡の前で一回転すると、スカートがふわりと揺れた。寝ぐせはどこにもないし、ほんのり顔に施した化粧も、服との相性はばっちりだ(化粧道具はルイーダがプレゼントしてくれた)。首から垂れ下がっているロザリオも今日は一段と光っている。

どこもおかしなところはない。

「よし、これでオッケー」

財布と簡単な化粧直しとその他もろもろを入れたケリーバッグを手にし、ルウは一階へ降りた。




「あら、ルウじゃない。今日はいつもより下に来るのが遅かったから、どうしたのかと思ったわ」
「あ、もしかしてリオとデート?今日のルウ、とっても可愛いよ」
下に降りてすぐ、カウンターでグラスを磨いていたルイーダと、予約リストとにらめっこしているリッカに声をかけられた。

「二人ともおはよう。あのね、今日はリオとのデートじゃないの。リオとは明後日一緒にツォの浜へ天体観測に行く約束はしているんだけど」
ルウの言葉にルイーダとリッカは大いに驚いた。
そこへレスターとステラもやって来る。

「ルウ、どうしたのその服?!」
「あー、ルウちゃん今日デートなんだー」
「相手はリオじゃないそうよ」
ルイーダがレスターとステラにも説明する。

「え、リオとじゃないって、じゃあ誰なの?」
ステラがカウンターにいる全員が疑問に思っているだろうことをルウに尋ねた。
別段隠すつもりもないルウは今日一日を一緒に過ごす相手の名前を出した。

実に数か月ぶりの再会となるはずの、大切なお友達。ルウが今着ている服をプレゼントしてくれた(プレゼントしてくれたのは他ならないルルーであるが、服を作ったのは彼女のおばである)友達の名を。

「ルルーちゃん。私のお友達なの」

女神の奇跡が起こってもなお、星に還らず人間界にとどまっている不思議な天使―――イザヤールの実の妹らしいラヴィエルの力による不思議な出会いを経ての、ルウにとってかけがえのない友達である。

ルルーとは同い年であるため、何かと話が合う。あちらも恋人がいるらしく(一度だけ会ったことがあるが、端正な面立ちをしていて寡黙な人だったのでリオに似ているような気もした)、二人で所謂乙女の談話をすることがルウの楽しみでもあった。


ルウの話に一階にいる者全員が納得したようだった。
と、そこにリオが外から帰って来た。

「……。どうした、その服は」
「あ、リオ!!」
ルウはリオの元へ駆け寄った。
リオはルウの姿をマジマジと見ている。ここまでじっと見られるとこちらのほうが恥ずかしくなるのだが、それを言ってやめるリオではないことはルウも知っている。

「どう?似合う?」
「とても似合っているが……、どこかへ出かけるのか?」
似合っていると言われ、ルウは嬉しくて口元が緩んだ。
口にはしないが普段とは違うルウの姿にリオも不安が隠せないらしいことは表情を見れば分かった。
「うん!ルルーちゃんのところ!」
ルウの言葉にリオも安心したようだった。リオと同じ宿命を背負った守護天使リディアの世界に住むルルーとルウが仲の良さは、リオも知っていた。

「そうか、なら俺も久しぶりにあっちの世界に行くか」
そして、リオもまた、ルルーの恋人であるインテとなんやかんやで馬が合うらしいことを、ルウは知っている。






セールで購入したスタンドミラーの前で一回転すると、風の抵抗を受けてスカートが翻った。頭につけたリボンカチューシャも良い位置に収まっている。顔に施した化粧も服との相性はばっちりだ。首からぶら下がっているケイトと分け合ったネックレスもよいアクセントになっている。
よし、どこもおかしなところはない。

「うん、これで大丈夫!」
最後にもう一度鏡の前でスカートをつまんでお上品にすましてみれば、隣でゴソゴソと音がした。インテが起きたらしい。

「インテさんおはようございます」
機嫌よくルルーは挨拶をする。
「ああ、おはよう……」
休みの日は好きなだけ寝ていたいらしい彼はまだ脳が起きていないのか、一つ欠伸をした。

「ん、今日はどこかへでかけるのか?」
一度も見たことのない服を着ているのが気になるらしい(イリアがしょっちゅうルルーに服を送って来るのでインテは見たことのない服をルルーが来ていてもさほど驚かなくなった。おばから送られてくる服は大抵デートの時にしか着ない)。

「お友達に会いに行くんです」
「もしかしてリディアか?こっちに来るなら俺にも連絡の一つくれたらいいものを」
「あ、リディアさんじゃなくて」
あなたもこの間会ったでしょう、と前置きを置いてルルーは友達の名前を告げる。
「ルウちゃん」リディアと同じ宿命を背負った守護天使リオの住む世界にいる友人の名前を。






「ルウちゃん!!会いたかった!」
「うわーん、ルルーちゃん私も会いたかったよ!!」
セントシュタインのリッカの宿屋。そこへ行けばすでにルウの姿が見えた。久しぶりに再会できた感動で二人ははしゃいでハグもする。

ルルーがイリアに頼んだ服は色合いが違う同じ形の服だった。白いブラウスの上にはチェック柄の上着、そして清楚な丈の長いスカート。そしてポイントはリボンカチューシャである。ルルーは青を基調としたコーデでルウは赤紫を基調としたコーデだ。

「ああ、成程、ルウのその服はあんたとのお揃い物だったわけだ」
再会を喜ぶ二人にリオが話しかける。

「そうなんです、イリアおばさまにルウちゃんとお揃いの服を作ってほしいって頼んじゃいました」
「ふーん」
相変わらずリオは興味があるのかないのかよく分からない返事をする。最も、ルルーとて決して饒舌なほうではないから人のことは言えないのだが。そういえばリオたちのパーティーだとステラが一番饒舌な子だな、とルルーはふいに思い出す。

「ところで」
今回リオも来るとは聞いていなかったが、彼が何の用でこっちに来たのかは大体予想出来る。リオの手にはお土産なのだろう、インテの好きなお酒があった。

「あの魔法戦士はどこだ」
「彼なら家にいますよ。ただ、起きたてだからもう少しどこかで時間を潰してから行ったほうがいいかもしれないです」
「そうか、分かった」
リオが短い相づちをうった。

「ミュージカルの講演までもう少し時間あるけど、先に席に座っとく?」
「そう?何かあったらいけないし、先に会場行っとこうか」
お互いに了解し、さっそく講演の会場まで行くことにする。

「それじゃ、行ってくるね。明日のお昼くらいには帰ってくるから」
「ん、了解」
ルウがリオへ手を振り、ルルーも軽い会釈だけする。
リオの返事は短いものだったが、きっと、二人の間には長ったらしい言葉などなくてもよいのだろう。それだけ二人の絆が深いということで。

そんな二人を微笑ましく思いながらルルーは宿をあとにするのだった。


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