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ホワイトデー当日。今日も日差しは温かく、春らしい天気であった。宿屋の仕事をこなすリッカは、ふと顔を上げると、あることに気が付いた。

「リタ、帰ってたんだ」

呼ばれた少女がリッカの言葉に振り返る。ルーラというキメラの翼効果のある便利呪文を習得してからというものの、セントシュタインのリッカの宿屋に泊まることの多くなったリタ達は、今日もまたこの宿屋を贔屓にしていた。

「あ、リッカ。ただいま」

「おかえりなさい。久しぶりのウォルロ村はどうだった?」

地震騒動に関する一連の事件以来、リッカもリタもウォルロ村には訪れていなかった。リッカは宿屋の仕事が忙しかったため、リタは女神の果実探しに奔走していたため、行くヒマがなかったのだ。

「んー、相変わらず静かで平和だったかなー。あ、でもニードさんが……」

もともとのどかな村なので、変化という変化はなかったのだが……あるとしたら、一つだけ。ニードがニートを卒業したくらいだろうか……シャレではなく。リッカがセントシュタインへ旅立つと共に宿屋を譲り受けたニードであったが。

「ニードがどうかしたの?」

「……いや、えっと……宿屋のお仕事頑張ってるみたい、だよ……?」

疑問形になってしまうのは……やはり、あの宿屋の状態がお世辞でも良いとは言えないから。
リッカが切り盛りしていた当初の見る影はなく、仕事をサボりまくっているのが明瞭であった、かなり不衛生な宿屋。客に対する馴れ馴れしい対応もアルティナの気に障ったらしく、もともと悪かった空気は更にぎすぎすしたものとなり、(主にアルティナの)我慢は限界に達した。宿屋からはものの3分で退散したという有り様である。
……といった様子をリッカの祖父に言うと、祖父は目の色を変えて宿屋に飛んで行った、なんてこともあった。それからと言うものの、宿屋から度々老人の怒声が聞こえてくるようになったのだが、それは日帰りでウォルロ村を訪れていたリタとアルティナの知る由もないことである。
しかし、その様子ありのままをリッカに伝えるのは忍びないというか何と言うか。リッカの祖父がニードと宿屋を何とかしてくれることを願うばかりである。

「そっか。ニード、ちゃんと頑張ってるのね。私達も負けないくらい頑張らないと!」

「そ、そうだね」

ひきつりそうになるのを何とか堪えて、リッカと二人で笑顔を浮かべる。

「あらリタ、お帰りなさい。アルティナとのデートはどうだった?」

「でっ……」

ストレートに切り出してきたのは、おなじみ酒場の女主人ルイーダである。リタは思わず言葉に詰まった。

「ルイーダさん、あの……これはデートっていうか、私がウォルロ村に行きたくてアルには付き合ってもらっただけなんですが……」

正確には、ウォルロ村に行ったことがないというアルティナに自分が守護していた村を見て欲しかったからで。……師匠から村を譲り受けて、まだあまり経っていなかったのだけれど。
しかし、ルイーダはその辺の事情は知らない。というか、知らなくても二人で行った事実は変わらない。

「だから、それを世間ではデートって言うんでしょうが。というか、今日はホワイトデーなんだからそれくらい気付きなさいよ」

「…………はっ、これってデートだったんですか?!」

今更ながらに気付いたらしい。リタの中にはデートという概念がないのか、はたまたズレているのか……自覚のないままに出かけてくることは度々あり、ルイーダがこうやって言ってやらないと気付かないことがほとんどである。ここまで来ると微笑ましいを通り越して、呆れを覚えるレベルであった。

「んで、結局どうだったのよ? さぁ白状なさい」

まるで取り調べの犯人に言うようなセリフを言う。……なんだか既視感に襲われた。こんな場面、どっかにもあったような。そんなことを片隅で思いながら。

「どうと言いましても、変わったところは特に……」

普段と変わったところなんてなかった。ただ、アルティナとニードもなかなかに相性が悪そうだなと思ったくらいで。

「えと、一緒にウォルロ村に行けて楽しかったです。カレンも行けたら良かったんですけど……」

ダーマ神殿に用があるとかで、三人で行くことは出来なかったのであった。正月の時といい、僧侶の仕事は大変なのだなぁ、としみじみ思ったが、リタは少々勘違いをしている。
そんな中、リッカがふとリタの首もとに変化を見つけた。

「そういえばリタ、きれいな首飾りしてるね」

「あ、これは……」

リッカの一言に、思わずといった感じでリタは首飾りに手を伸ばした。ターコイズブルーの石の連なったそれは、出掛ける前にはつけていなかったものである。

「もしかして、それがホワイトデーの?」

面白そうに目を細めるルイーダ。その仕草が何だかアルティナに似ているな、と思った。

「はい。えと、アルに貰いました」

リタは嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに笑っていた。
悩みと誤解だらけのホワイトデーは紆余曲折を経て、やっと終息したのであった。





冬生さんより、ホワイトデーのお話でしたー(´∀`*)
カレン嬢との掛け合い、面白かったですねo(^-^)o
まずはアルティナ君まじイケメン。ターコイズブルーってあれだろ、君の瞳の色だろ!私にはわかっているのだ(`・ω・´)どやぁあ
それと男の子が女の子にアクセサリーを贈るのは、その女の子を繋ぎとめておく為らしいですよ!(^^)アルティナ君まじイケメン。
だが私としては、渡す場面も読みたかった…(´`)アルティナ君のことですから、きっとぶっきらぼうに渡すと思うんですよ……少しも照れないで(笑)
リタちゃんもだんだん素直になってきた気がします(*´艸`*)無欲なところはうちの天使も見習って欲しいですね。まさに天使の鑑!!これからの展開が楽しみです←誰

冬生さん、素敵なお話を
ありがとうございました!!

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