頂きもの・捧げもの | ナノ


▽ 2


「ねぇ。あなたリタさんよね? バレンタインデーにアルティナさんにチョコレートを渡したって本当なの?」

リッカの宿屋にて、自分の泊まる部屋へ向かおうとした時のことである。少女何人かに囲まれ、弾んだ無邪気な声でそう訊ねられた。なぜ取り囲まれたのかも分からず困惑するリタに、(人間基準で)同い年くらいに見える少女は好奇心に満ちた眼差しで詰め寄る。こんな大人数を相手にしたことがないリタにとっては、若干恐怖すら感じる。

「ねぇ、そうなんでしょ?!」

「えっと、一応……?」

すると、次の瞬間きゃあきゃあざわめき出す女の子達。この騒ぎは一体何。目を白黒させるリタにはお構いなく、少女達は口々に言い合った。

「やっぱり、あの噂は本当だったんだわ!」

「あの無愛想な戦士さんもついに?!」

「最近丸くなったと聞いてたけれど、道理で……」

などと、きっとアルティナのことだろうと思われることを喋っている。何が“ついに?!”で、何が“道理で……”なのかは分からないが、とりあえずアルティナにまつわる話らしいということはリタにも分かった。

「えっと……アルがどうかしましたか?」

「まぁ、“アル”ですって!」

「あの人に恋人が出来たというのは本当だったのね!」

恋人?
リタはぽけっとした表情で相手の顔を見つめてしまった。その言葉が、意外過ぎて。

「アルに恋人なんて……聞いたことないんですけど」

恋人の影などどこにもない。恋人の“こ”の字すらない。一緒に旅をしてきたのだから恋人がいたらすぐに分かるはずだと思う。
結構確信に満ちた疑問点に、少女達はあっけらかんと答えた。

「え? だってあなたがその恋人さんなんでしょう?」

「…………えっ」

その返答は予想外だ。

「そんなっ、私は恋人ではないですよ! 一緒に旅してるだけです。つまり人間界……いえっ、何というかその……仲間です!」

天使界のことなども口にしそうになって焦ったが、とりあえず“仲間”という言葉に済ませる。緊張すると、嘘はおろか言い訳までおざなりになってしまう自分に嫌気がさす。

「そうなの? でもアルティナさん、バレンタインにはあなたのチョコしか貰わなかったと聞くし、てっきりそうなのかと……」

それも初耳だった。

「……どうして」

すると、嬉々として少女は理由を喋りだす。その、噂されてる内容を。

「あの人、お菓子は嫌いだと言って女の子達からのバレンタインのお菓子を全く受け取らなかったそうよ!」

「まぁ、お菓子以外だったとしても、“貰う理由がない”と受け取らなかったそうだけれど」

「それなのに今年は一人の女の子からだけは受け取ったんだって聞いて。ねぇ、それってあなたのことでしょ?」

「それは……」

口ごもるリタに対して、少女達の口は止まらない。

「お菓子は嫌いなのに、恋人からの贈り物だけは受け取る……愛の為せるワザよね!」

「アルティナさんて冷たい人だと思ってたけど、結構優しいところもあるんじゃない。そういうところも素敵だわ」

「そんな風に想ってもらえるなんて、うらやましい限りだよねー」

……何やらいろいろ誤解をしているようだが。
少女達の中では、アルティナはかなり美化された存在らしいことは分かった。そして、その噂とやらも。
バレンタインデーのその日、菓子が嫌いらしいアルティナは贈り物を一切受け取らなかったらしい。しかし、リタからのものだけは受け取った。それはつまり――つまりは。

「……どうしたのリタさん、顔色が悪いみたいだけれど」

リタの変化に気が付いた一人が心配して訊ねる。しかし、本人は顔を振るだけだ。

「あ……何でもないです! すみません、もう失礼しますね」

と、微笑む顔はあんまり大丈夫そうには見えないのだが。少女達が心配して見守る中、リタはふらりと階段を上り自分の部屋へ扉を開けて入っていってしまった。
やがて、ぽつりと少女の一人の呟きが漏れる。

「私達……何かまずいこと言ったかしら」

「さぁ……」

良くも悪くも、悪気のなかった少女達は首を傾げる。バレンタインデーから半月ほどは経った後。昼下がりのことであった。

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