アリアドネの糸番外 | ナノ


▽ …目が醒めたら、


(リオ視点)

…目が醒めたら、外は薄暗かった。かなりの時間、寝ていたようだ。

部屋には、誰も居なかった。

別に4人でひとつの部屋を取っているわけじゃないから、何とも思わなかった。

ただ、誰か起こしに来てくれたって良いだろう。

…そう思ったが、今日はレスターとステラは2人で出掛けていたし、ルウだってオリガと星を見るって言ってたから暇じゃない。
仮に起こしに来てくれたって、俺の機嫌は悪いだろうからそれでいい。

しかし…、暇だ。

二度寝はできない質(たち)の自分を恨んだ。仕方ない、外でてきとうにG(ゴールド)を稼ごう。

俺は1階(した)に降りた。



◆   ◆   ◆




脳内は完全に覚醒しているのに、身体が重かった。瞼に力が入らない。あぁ、怠い。

カウンターに、見馴れた人影がいる。
…ぁぁ、ルウか。


…………


………



……




…ルウ!?

「あ、リオ。起きるの早いね」

「……オリガの所に行ったんじゃなかったのか」

ルウは少しびくっとしたように見えたのは、絶対気のせいじゃない。

「Σそ、れは、そう、なんだけど…そのぅ……」

ルウは何かモゴモゴ言いながら、
カマエル――随分世話になっている、珍しい、話す錬金釜だ――の中に材料を入れていく。

「…どうしたんだ?」

「だっ、だから…えっと…、つまり…、」

「お嬢様、出来上がりました」

……この釜は空気を読むことを知らないのか。ルウの興味は完全にあいつに奪われた。

「あ、ありがとう」

ルウは出来上がった特薬草を小分けにして、丁寧に包んだ。

「お嬢様の錬金術の腕前は、天才的ですな。御上達が本当にお早い」

「褒めたって何も出ないよ」

ルウは照れながら作業を続ける。
何故か俺は、苛々してきた。
黙って向きを変えて、出口に向かった。
ルウが何か俺に声をかけていたようだが、無視して、少し乱暴に扉を開けた。何となくだが、聞きたくなかった。



◆   ◆   ◆




…バキッ!!

剣先を後で磨きたくなかったから、突き刺すとか致命傷を食らわすような攻撃はしなかった。

最後は、魔法戦士になってから割と達者になってきた呪文か、素手でとどめを刺す。

身体を動かすと、だんだん落ち着いてくる。やっと頭の中が醒めてきた。

……そして溜め息を吐いた。

なんだ、俺。
自分はこんな女々しい奴だったか?…嫉妬、だなんて。

たかが錬金釜に?いかれてる。
全く、自分がますます人間くさくなった気がして、何だか複雑な気分だ。

…戻ろう。酷く、神経というか、身体全部が疲れた。

全く、何故ひとりの女の為にこんなに疲れるんだ。

その疲れが心地良い、と思うのはどうしてだろうか。




◆   ◆   ◆




「…あ!リオ…っ!」

俺が宿屋に戻ると、ルウが何やら不安そうな顔をしている。

……あぁ、俺の機嫌を損ねたと思ってるのか。ただ俺の方が嫉妬していただけなのにな。

「ただいま、用事はもう全部済んだか?」

俺は自分なりに柔らかくそう言った。ルウには通じたようだ、安心した顔になった。

「うん。……怒ってない?」

「ん?…怒る理由はないと思うが…何かしたのか?」

嫉妬する理由はあったが、うそぶいてみる。ルウは俺が頭を痛める程鈍感だから、しらを切り通すのは難しくない。

「だ、だってリオ…機嫌悪かったから…」

やはり、俺を怒らせたと思っていたようだ。ただ嫉妬しただけなのだが。

「…虫の居所が悪かった。オリガの所に行くんじゃなかったのか?」

「そのことなんだけど…、その、
は、恥ずかしくて…さっき…言えなかったの」

「恥ずかしい?何がだ?」

「い、言わせないでよ!」

「解るか!」

「はいはい、痴話喧嘩は部屋に行ってからねー」

「「違う!!」」

見兼ねたリッカが勝手に部屋を用意し、2人に鍵を差し出した。

2人は今、宿屋のど真ん中で言い合いをしていたのだ。

「ホラ、その辺が、」

夫婦っぽい…、とリッカが続ける前に2人はそれぞれ顔に朱を混ぜて部屋に走って行った。



――私はただ、リオと一緒に月を見たかっただけなのに!
オリガが変なこと言うから、意識しちゃって言えなかったの!

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