▽ ステラの呪文実験
「…ごめんなさい」
某日。
セントシュタインにあるリッカの宿屋のとある部屋で、爆発音がした。
何があったのかと様子を見にいってみると、ステラがやったらしかった。
「…………何をしていたんだ」
いきなり謝られてもよくわからなかったので、嫌な予感がしつつリオが低い声でステラに聞いた。
「古代呪文の復活」
遠い昔は、誰でも移動呪文“ルーラ”を使えた時代があったり、呪いを解くことのできる“シャナク”という呪文があったりしたそうだ。
ステラが使ったという“モシャス”は、ある特定の生物に姿を変える、というものである。
「それでー、そこの可愛い猫ちゃんが巻き込まれちゃったんだー?」
ステラの腕の中には、紫色の毛並みと碧い瞳を持った、どこかで見たような猫がいた。
「…ルウ?」
リオが眉間に皺を寄せ、まさかといった感じでとある名を口にした。
「にゃあ…」
するとタイミング良く猫が鳴いた。
「偶然、か…?」
リオが偶然タイミングが合っただけだと思ったようだ。
しかしステラと猫が同時にふるふると首を横に振った。
「ルウだよ。呪文、成功したの。でも…」
「…でも、何だ」
「戻し方が、わかんない」
◆ ◆ ◆調べた結果、まだ未完成の呪文でもあり、元々時間が経つと元に戻るらしいので、時間が解決してくれる、とステラは言った。
とりあえず、ルウはリオが責任を持って世話することに。
ひとたび歩くと後ろから一生懸命について来るルウが可愛くて、ついリオは買い物に立ったり城に顔を出したりしたくなってしまう。
「…しかしなぁ、」
結局、他の人がルウだと知らずにちやほやするので何だか面白くなくなり、部屋に戻ってきた。
「うみゃ?」
リオがしゃがみ込み、ルウの頭をぐりぐりと撫でる。そのまま手を下ろして顎(あご)の下をかいてやると、ルウは気持ち良さそうにごろごろと喉を鳴らした。
「何もできないな」
リオは何がしたいのかルウにはわからなかったが、とりあえず撫でてくれるリオの指を舐めて慰める。
リオがふ、と頬を緩ませてルウを抱き上げた。
きゅ、と抱きしめると小さいからだから心臓の鼓動が響いて、とても安心できた。
ルウの、魂を抱いているように心地良くて、そのままベッドの上に横になった。
リオの腕の中でもぞもぞと身じろぎ、楽な体制になってからルウがあくびをした。
「…このまま、寝てしまおうか」
ルウの背中を撫でながら、思いついたようにリオが呟いた。
…返事がない。
顔を覗き込んでみると、既にルウは夢の中へと旅立った後だった。
「…………」
よく考えれば、ルウは今日一日小さいからだでリオの後ろをついて回っていた訳で。
リオは大した距離は歩いていないが、今のルウにとっては大した距離だったのだから無理もない。
リオは溜め息を吐いてブランケットを被ると、ルウを優しく抱き寄せてそのまま目を閉じた。
◆ ◆ ◆…何だか、身体が重かった。
自分の肩に、何か乗っかっている。
とても温かくて心地好いのだが、そろそろ起きないとリッカが困るだろう。
(…あ、れ?)
そもそも自分は今、猫なのか人間なのか。
普通なら愚問だが、昨日は状況が違う。仕方なくまだ眠たい目をこすった。
…こすった。
(手、だ…!)
一気に頭が覚醒した。
昨日、自分は何処で意識がなくなったかがはっきりとわかり、顔に熱が集まっていくのがわかる。
では、今自分の肩にあるものは紛れもなく大好きな人の腕で。
その人はまだ眠っている訳で。
(!◎×□%〜?…!!!)
[ルウは混乱した!]
「ん…、」
リオの瞼がピクリと動いた。
ゆっくりと銀色の瞳が現れ、ルウの真っ赤な顔を捉える。
「…ルウ?」
その瞬間、ルウは恥ずかしさでベッドから飛び出そうとした。が、リオがそれを許さない。
「戻ったのか」
「う、うん。戻ったよ。だから…」
「そうか…」
だから、放して。
そう言いたかったのに、リオが凄く安心した顔で抱きしめるものだから、ルウは何だかどうでも良くなってきた。
「…ちょ、リオ?」
と、思ったらいつの間にかリオは二度寝を始めてしまった。揺すっても全く起きない。
「おかしいな…いつも二度寝しないのに」
頬をぺちぺち叩いても起きなくて、抱かれた腕もほどける気配がない。
「…もう」
それでも嫌だと思わないのは、惚れた弱みというやつか。
まあ、たまには良いかなぁ、とリオに便乗してルウも二度寝を決め込んだ。
はい、オチが無い、っと。
あれ、もっとリオが嫉妬したり嫉妬したり嫉妬したりするつもりだったのに(笑)
この後ね、リオが妙な抱き癖ついちゃってたら良いよ(´ω`*)
そんでルウも断れなくて毎晩添い寝とかしちゃえば良いよ(´ω`*)
うーむ、私は一体何がしたかったんだろうか(´д`;)
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