▽ 光る果実と皮の靴
リオ達は船着き場から南東へ向かい、カラコタ橋に辿り着いた。
橋の下には簡素な小屋やテントが建てられていて、“そういう人達”が身を寄せ合って生活しているようだ。
下に降りる為に梯子か何かないか、と三人は橋の上をきょろきょろと見回す。
ふと、リオの動きが止まった。
「リオ…?」
ルウが気づいてリオに声をかけるが、反応がない。ルウはリオの視線の先を見てみた。
「…いない」
少女の霊だった。
フードの付いた群青色のマントを頭から被った、薄い青い瞳の少女だ。
「あの人は、この町にもいない」
町を見渡していた少女は悲しそうに首を振り、その場を去ろうとした。
…が、リオを見て立ち止まった。
少女はリオの所まで歩いてきて、少しかがみ、リオの顔を覗き込んだ。
「……………」
少女の方から、目を離した。
「…違う。違うわ」
そして、リオとルウの立っている間をすり抜けていった。
「…どうかしてる。旅人を天使と見間違えるなんて」
…そんな言葉を言い残して。
リオは身体を硬直させた。
“天使”という言葉に敏感になっているのだ。そんなリオを見て、ルウはなんと言って良いかわからず、ただ後ろから不安げに見つめるだけだ。
ルウがオロオロしていると、鶴の一声よろしく、レスターの声が飛んできた。
「ねえねーえ、梯子あったよー」
リオはその声ではっ、と我に返り、ルウには気づかずにレスターの所に向かっていった。慌ててルウも追いかける。
「情報といったら、まず酒場だよねー。あっちに看板あったから、行ってみよーう?」
リオとルウは無言でこくり、と頷いた。
それから三人は、女神の果実の拾い主を捜して酒場に向かう。
梯子を下り、川を渡って、焚火に当たりつつ寒い寒いと呟く老人に目もくれずに酒場の扉を開けた。
中は粗末な割には片付いていた。バーテンダーをしているのは赤いブレザーを着た、ルウと歳の変わらない女の子だった。
カウンターから離れた所では、何やら物騒な会議が繰り広げられている。盗賊団だろうか。
女神の果実の目撃情報はあったが、もう取引がなされた後だった。
「………」
ぴき、と。
リオは怒りと焦りとで苛立ち、眉間に皺を寄せて額に青筋までくっきりと浮かべている。
女神の果実らしき光る果実を拾ったと言っていた戦士は無粋にも皮の靴と交換して手放してしまっていた。
「…人間はものの価値の判らん奴らばかりだ」
その戦士の着ていた鎧にはあまりにも不釣り合いな皮の靴を目の前でやたらと自慢されたことも、リオの苛立ちを増幅させる原因となっている。
「まあまあー、過ぎたことはしょうがないんだから、皮の靴を交換に出した人の所に行ってみよー?」
ルウはもうどうして良いかわからずに冷や汗ばかりかいている。
リオは舌打ちをして踵を返し、目的の小屋を探し始めた。
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