アリアドネの糸 | ナノ

▽ 新たなる一歩

「旅人さん、おはようっ!」

ぼすっ!!

「わー、なんかデジャヴー!」

プライベートビーチから戻ったリオ達は、村長の家の従者の意向で、その夜は無料で宿屋に泊まらせて貰った。

そして翌朝――つまり今現在――、レスターはトトにタックルで起こされた。どうやらすっかり懐いてしまったようだ。

「昨日はほんとにありがとう。旅人さんは強いんだね。ぼく、がんばって大人になるよ。そんで、旅人さんみたいになる」

トトはレスターに向かって、そう宣言した。レスターは心底驚いた顔をする。

「オリガのこと、守るんだ。ひとりになんかさせない。オリガは強い子だってみんな言うけど、でも、女の子だもん」

それを聞いて、優しく笑う。

「ただ強いだけじゃなくて、自分の弱さもわかる“強い人”になってねー?」

トトは首を傾げたが、大人になればわかるよ、とレスターが頭を撫でてやると素直にうん、と頷いた。

「今日から船が出るんだ!旅人さんもはやく来てね!」

無邪気に笑ってそう言うと、トトはぱたぱたと走って外に出ていった。

「可愛いねー」

レスターはその背中を見て、にぱっ、と笑った。

身支度を整えて浜に出ると、オリガが女の人と一生懸命に網と格闘していた。

「おはようございます、旅人さん!」

オリガはリオ達を見つけると手を振った。

「おはよう、オリガちゃん」

「あの…、本当にありがとうございました。皆、もうぬしさまを呼べないってこと、どうにかわかってくれました」

オリガはペこりとお辞儀をした。

「お父さんがぬしさまだったなんて…。なんだか夢を見てたみたいです。あの時本当は、ぬしさまになったお父さんともっと一緒にいれたら、ってちょっと考えちゃった」

「オリガちゃん…」

「でも、あんなのは良くない。お父さんがかわいそうだもの。…あたし、頑張りますよ!お父さんもお母さんも見守ってくれている。それに、トトだっていてくれるもの!」

オリガは手にしていた網をぎゅっと握りしめながら、とびきりの笑顔でガッツポーズをしてみせた。

ツォの浜ではまた漁を始めることになったらしい。オリガも船に乗せて貰えることになったそうだ。今はまだ網を片付けることしか出来ないが、いつかきっと彼女は父親のような立派な漁師になるに違いない。

「あの、たまに、また、遊びに来てくださいね。あたし、待ってますから」

「絶対、オリガちゃんのお魚を食べる為に戻ってくるよー」

「…………」

「旅人さぁーん!!」

トトがまたぱたぱたと走ってきた。

「旅人さん達はこれからどこに行くのか決まってるの?」

「…いや、まだだ」

「今から出る船、東の大陸まで行くんだって!おじさん達がね、旅人さんに乗ってかないかって」

「それは有り難いな。お言葉に甘えて、乗せて貰うか」

それで良いか?とルウとレスターの方を見ると、二人共異存はない、というふうに頷いた。

早速、船のある桟橋に向かい、漁師に挨拶をする。

「よしきた!それじゃ、出航だ!」

バサッ!!と帆を下ろすと、風を受けて船が走りだす。

「旅人さん、またねー!!」

トトが腕がもげるんじゃないか、という勢いで手を振ってくれた。

リオも控えめに手を振り、小さな漁村が遠ざかるのを見つめていた。



◆   ◆   ◆




景色が海だけになると、サンディが姿を現した。ちなみに今この場にはリオしかいない。

「それにしても人間の船にお世話になる日がくるなんてねー」

「…悪かったな、飛べなくて」

「スネないでよ。今度は新大陸だし、この調子でパッパと果実を回収しちゃおうね、リオ!アタシもとっととテンチョー見つけなくちゃ」

ダーマ神殿でも言っていたが、テンチョーなる人物は一体何者なのだろうか。

尋ねる前にサンディはさっさと小さくなり、姿は視えなくなってしまった。

リオはそこまで落胆せずに、船底のつくる白い波をぼんやりと見つめていた。

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