▽ ぬしさま戦
「ぬ、ぬしさま…?」
村長は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
ぬしさまはグルルルル…≠ニ村長に向かって低く唸る。
従者は慌てふためき、用心棒らしき男は立ったまま、ぴくりとも動かない。
リオ達ははぬしさまに向かって走り出した。
オリガは飲みこまれたが、まだ消化はされていない筈だ。
「…良からぬこと、ね。あんたの主人の考えてることはさぞかし素晴らしいことなんだろうな」
リオは冷ややかな笑みを男に向け、すれ違いざまにそう言った。
「なっ、貴様、誰の許可があって人のプライベートビーチに…!」
村長がリオ達に気づき、怒鳴った。リオは立ち止まり、無表情で村長に目を向けた。
村長は今の状況をはた、と思い出し、リオに向かって懇願した。
「い、いやっそんなことはどうでも良い!頼む、助けてくれっ!!」
リオは先程よりも冷たく、ニヤリと唇を歪ませた。
「あんたには優秀な用心棒がいるだろう?まぁ、盾くらいになら使えるんじゃないか?」
「私、そんな頼りない盾欲しくない」
「…それもそうだな」
「リオ君もルウちゃんも容赦ないなー」
ぬしさまが吠えた。
「早くオリガちゃんを助けなきゃ」
「どうするー?リオ君?」
「…打撃で攻めて、吐き出させられないだろうか」
「良い線かもねー?」
リオ達は、戦闘体制に入る。
[ぬしさまの攻撃!]
ぬしさまは身をひるがえして尾を使い、リオ達を薙ぎ払った。
それぞれリオは剣、ルウは盾、レスターは跳んでそれをかわす。
始めに、リオが下腹に蹴りを叩き込んだ。
[リオの攻撃!]
多少のダメージはあるようだ。
「どうしよう、私何したら良い?」
力のないルウが素手で攻撃してもあまり意味が無い。
「傷さえつかなければ良い。みね打ちなら効くだろう」
「でもー、吐かせる、っていうより口まで持ってきてから気絶させる方が安全じゃないかなー?」
「…なるほどな」
[レスターの攻撃!]
レスターの拳が、ぬしさまの下腹にめり込む。
ぬしさまが苦しげに吠えた。
[ぬしさまは津波を引き寄せた!]
ぬしさまの背後に、津波が見えてきた。
「嘘!?」
「大変ー僕カナヅチなんだー」
「海水を飲まないようにしろ!波は引く筈だ、レスターもそのくらいできるな?」
「大丈夫ー」
「なるべく岩の端に行くなよ!海に引きずり落とされるからな!」
津波が押し寄せ、リオ達に襲い掛かった。
水が打ちつけた衝撃で、ルウの足元が浮いた。
引いていく波に、身体を流される。
「わ…ッ!!」
「リオ君ールウちゃんがー」
「“ヒャド”!!」
リオは咄嗟に呪文を唱え、ルウのまわりの海水を凍らせた。
それがストッパーになり、ルウは岩から落ちずに済んだ。
「ごめんなさい、リオ」
「……ああ。レスター、ちょっと良いか?」
「はいはーい」
「“ためる”ことはできるか」
「うんー?できるよー」
「時間を稼ぐから、一発で仕留めてくれ」
「やってみるねー」
「ルウはレスターの護衛を」
「うん」
「津波がきたら迷わずレスターにしがみつけ」
「う、うん?」
リオはすぐにぬしさまの方を向き、呪文を唱えた。
「“ヒャダルコ”!!」
先程のヒャドよりも威力の高い呪文で、パンデルムの時と同様に動きを鈍らせる。
ぬしさまが氷を振り払う前に呪文を唱え、攻撃を繰り出させない。
[レスターは全身に力をためた!]
ルウはレスターの集中が切れないように、時々飛んでくる氷の欠片を叩き落とした。
「準備できたー」
「俺の剣に乗って、反動で攻撃しろ」
リオは剣を横向きにして斜め上に構えてみせた。
レスターは両足を乗せ、リオが押し出したと同時に剣先を蹴って飛び出した。
[レスターの攻撃!]
レスターは一度目と同じ場所を的確に捕らえ、ぬしさまの下腹を抉った。
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