アリアドネの糸 | ナノ

▽ 村長の息子の依頼

パチパチ。

昨晩に消した筈の火の弾ける音でリオが目を覚ました。

ふと囲炉裏を見ると、やはり火がついている。隣で眠るレスターは、まだ起きる気配が無い。

ベッドの方を見て、リオは驚愕した。

オリガとルウが寝ている筈のそこには、オリガの姿が消えていた。

「おい、ルウ」

リオはルウを揺すって起こした。ついでにレスターには蹴りを入れておく。

「オリガが消えた」

「……ふえ?」

ルウは眠そうに目を擦りながら隣を見る。

…一瞬で目が覚めた。

「オリガちゃん何処に行っちゃったのかなー?」

乱暴に起こされたレスターは、蹴られた所をさすりながらそう言った。

――あたし、もう一度村長さまにぬしさまを呼ばない、って言ってみます!

「…村長の所か」

リオ達は手早く支度を済ませ、オリガの家を飛び出した。



◆   ◆   ◆




外に出ると、何だか村が騒がしかった。

オリガがいないからだ。

楽することの味を占めてしまった村人達は、すっかり彼女に頼りきりの生活に慣れ、彼女なしでは食料を確保できなくなっていた。

「…俺から見たら、オリガよりあいつらの方がよっぽど能無しだぜ」

リオは心底ツォの浜は嫌いらしい。心なしか口調が粗雑になっている。

「あ…、お兄ちゃん!!」

誰かがこちらに向かって走って来た。レスターが昨日見た、村長の息子、トトだ。

どうやら昨日、家に来たレスターの顔を覚えていたらしい。

「あのね、オリガがうちに来て、やっぱりもうぬしさまを呼びたくないって言ったんだ。そしたらパパがすごい怖い顔して、オリガを裏から行った所の岩場に連れてっちゃって…」

オリガは昨日の宣言通り、村長に自分の意見を貫き通したようだ。

トトの話だと、屋敷の裏の出口から少し行った所に村長のプライベートビーチがあるとか。

「ぼく…、何だか嫌な予感がするんだ。お願い、オリガとパパを追いかけて!」

トトはレスターを引っ張り、屋敷の裏に連れてきた。そして出口の鍵を開ける。

「よーし、わかったー。僕達が絶対にオリガちゃんと村長さんを仲直りさせてあげるねー」

仲直り、はちょっと違う気がするがまあ良いだろう。

リオ達は、村長のプライベートビーチとやらに向かって走り出した。

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