アリアドネの糸 | ナノ

▽ ヒトとテンシ

リオは翼で風が起こらないように、滝の前の地面にそっと降り立った。

たとえ人間には視えなくても、敏感な者は不自然な変化に気づいてしまう……とイザヤールに注意されたことがあったからだ。

すぐそばで二人青年が会話をしているのが聞こえて、リオは振り返った。

「ニードさん、何がそんなに気になるんですか?」

「うーん……、あそこに建ってる天使像の名前が、前はイザなんとかだったのに、リオになってんだよな……」

「え? 前からリオでしたよ?」

「前からっていつからだよ!? ちゃんと覚えてるのか?」

「……あれ?よく覚えていないッス」

天使像とは、守護天使が配属されている村や街に建てられている、人型に翼を生やしたような像のことで、それぞれの天使の名前が彫られている。ウォルロ村のものは滝のわきの高台にあり、以前はイザヤールが任地としていたが、守護の任がリオに引き継がれたので名前が変わっていたのである。

それに気づいたニードという青年は、イザヤールの言う敏感な者なのだろう。

「だろ? いつのまにか変わってる。皆、変なんだよ」

「じ、じゃあソレが天使さまのチカラなのかも…?」

「バカかお前は? そんなもん本当にいる訳ないじゃん! 天使なんか信じてんのは石アタマのリッカだけだってーの!」

ニードはこれ見よがしにため息をついた。

「本当に天使がいるなら、このオレの目の前に連れてきてみろってんだ!」

リオは「……おぅ連れてきたぞ」と呟いた。

リオは任地が今日も平和であるか見回るため、少し浮かんで移動して行った。

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