▽ 旅人達の提案
「ただいまールウちゃーん、リオ君に変なことされなかったー?」
「する訳無いだろ」
「むしろ迷惑かけました…」
レスターとオリガが戻ってきた。
オリガは囲炉裏の魚の位置が変わっているのに気づいて慌てて謝る。
「ごめんなさい、あたし…」
「大丈夫、大丈夫。オリガちゃん、お腹すいたでしょ?良い感じに焼けたんだよ」
ルウは自分の隣の床を叩いて、そこに座るようにオリガを促す。
オリガは少し遠慮がちに、ちょこん、と座った。
「ありがとうございます。あの、旅人さん達も、お夕飯まだでしょう?一人じゃ食べ切れないので、その…、め、召し上がりません、か?」
…ぐーう、
「あ、ごめんねー?」
「ふふ、私もお腹すいた。いただいても良いの?」
「はい!」
お言葉に甘えて、ツォの浜の塩焼き魚を皆でいただくことにした。
◆ ◆ ◆お腹も落ち着いた所で、オリガは村長の屋敷であったことをリオ達に話してくれた。
「海の神様に甘えきってしまうなんて、いけないことだわ。なのに、誰も耳を貸してくれない。村長さまだって」
初めてオリガを見た時は、くすんだ青い瞳だとリオは思っていたが、今はきらきらと光って、強い意思を宿しているように見えた。
「でも、村のことに関係ないあなた方になら、きっと話を聞いてもらえると思ったんです。教えてください。やっぱりこんな暮らし、間違ってますよね?」
三人は顔を見合わせた。
ルウはもちろん、オリガの扱いに対してはかなり疑問を持っている。
レスターは、ぬしさま自体に何か違和感を感じているようだ。
「変か普通かは、俺達が決めることじゃない」
リオが、口を開いた。
「価値観の問題だろ。要するに。沢山の人が変と言えば変になるし、普通と言えば普通になる。あんたが誰に何と言われても、違和感を感じ続けるなら、それを貫き通せば良い。少なくとも、俺はそう思う」
そして、面倒くさそうに
「俺個人としては至極どうでもいいことだがな。村のことは村の奴で解決しろ」
吐き捨てた。
(吐き捨てた…!!もう、ちゃんと考えてるのか、そうでないのか…)
ルウは顔を青ざめてオリガを見た。きつい言い方だったので、泣いてしまうんじゃなかろうか、と思ったからだ。
「そう…、そうですよね!あたしは絶対、間違ってると思うんです!」
オリガは少しもへこまなかった。むしろさっきよりも生き生きとしている。
「あたし、もう一度村長さまにぬしさまを呼ばない、って言ってみます!…あ!喋ってたらもうこんな時間!旅人さん、今日はどうかうちに泊まっていってくださいね」
◆ ◆ ◆自分の後ろから、穏やかな寝息が聞こえてくる。
オリガは雑魚寝する、と言ったが、ルウがそれを許さない。そして、オリガに頼まれて彼女は二人でベッド。男二人は雑魚寝というかたちに収まった。
レスターはベッドに寄り掛かって眠っている。
「ねぇ、リオ…。起きてる?」
同様にベッドに背中を預けるリオに、サンディがそっと声をかけた。
「アンタ、あんなムセキニンなコト言っちゃって。これでオリガが村からハブンチョにされたらどーすんのさ。…確かにあの“ぬしさま”ってヤツ、なんてゆーか、良くないかもしれないよ?」
(無責任くらい漢字を使え…。だいたい、ハブンチョって何だ。頭悪そうな言葉だな)
「でもサ…、アンタどうする気?この村のことに関わるの?」
「…果実の為なら、何だってやってやるさ」
リオは目を閉じたまま答えた。
サンディはそれ以上、何も言わなかった。
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