アリアドネの糸 | ナノ

▽ 漁をしない漁村

アユルダーマ島の北側にあるダーマ神殿の一件から、レスターが仲間に加わって少しにぎやかになったリオ達。

その神殿から南に向かい、ツォの浜という漁村を目指して歩いていた。

リオの予定通り、三人は夜に小さな村に到着する。

これからどうしたものかと立ち尽くしていると、浜を散歩していた老人に声をかけられた。

朝になったらとても有り難いものが見られるから、今夜はこの村の宿屋に泊まると良い、と勧められ、リオ達は素直に従うことにした。



◆   ◆   ◆




ルウは傍にあった窓を開け、流れてくる潮風を思い切り吸い込んだ。

「…んっ、げほっ!げほっ!」

「潮のにおいに慣れていないのか」

「あ、おはよう、リオ。私はほら、セントシュタイン生まれだから」

「海とは無縁、か」

「うん」

ベッドの寝心地が悪かったのか、リオは首を回して立ち上がった。

「…おい、レスター」

リオは隣のベッドで寝ていたレスターを揺すった。

「起きないね」

「お前が起こせば起きるんじゃないか?」

レスターはまだ静かに眠っている。会話は聞こえているのかいないのか。

「…レスター、朝だよ」

「ルウちゃんおはようー」

「ほらな」

「……………」

「リオ君もおはようー」

「…ついでだからって言わなくても良いんだぞ」

「やだなーリオ君、ヤキモチー?」

「さっさと仕度しろ」

「はーい」



◆   ◆   ◆




三人が外に出ると、浜に沢山の人――多分、村人だろう――が集まって、一人の少女を見守っていた。

ピンク色の髪を下向きに二つにしばり、少し曇った青い瞳は悲しそうに海の向こうを見つめている。

「…何が始まるんだ?」

「儀式…か何かかな?」

「まー見てればわかるんじゃないかなー?」

そんなことを話していると、やがて少女は胸の前で手を握り合わせ、ぱしゃぱしゃと海の中に入っていった。

膝くらいの深さまで歩いてくると、そっと片膝をついて瞳を閉じ、祈るようにして言った。

「…ぬし様、海の底よりおいでください。どうか、あたし達にお力を。ツォの浜の為、海の恵みをお授けください」

少女の声が風に乗って海の向こうを渡ってゆく。

……ザ……ザザ………

波の揺れが変わりだした。

「何だ……?」

村人達は微動だにせず、じっと波を見つめている。

ザザザ…ザザザザザ……!!

海面が盛り上がり、ザバッ!!と大きな魚の尾が出てきた。

尾は海面を強く叩き、浜の方に水しぶきを飛ばした。

バシャン!!

リオとルウは思い切り水を被った。レスターは後ろの方にいたので、二人を盾にするかたちになってしまった。

「あははー、大丈夫ー?」

「うん。でも服が濡れちゃった」

「…服ぐらい売ってるだろ」

リオは額から垂れてきた海水をうざったい、とばかりに乱暴に拭った。

「これ…魚?」

ルウが水びたしになった砂浜を見て、呟いた。

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