アリアドネの糸 | ナノ

▽ レスターの秘密

「そういえばリオ君ってさー」

リオ、ルウ、レスターの三人で、ダーマの塔からダーマ神殿に戻る途中で、レスターが唐突に話を振ってきた。

「普通の人間、じゃないでしょ?」

…びくっ、と反応したのはリオだけではない。何故かルウも肩を震わせた。

「…どうしてそう思う」

あてずっぽうか、それとも確信か。

「うーん、におい、かなー」

「……は?」

「僕もねー、普通の人間じゃないんだよねー」

いきなりのカミングアウトに、二人は混乱する。何も言えずにただぽかんとしているだけ。

「つまりねー、僕は人間と魔物のハーフなんだよー、ってことー」

そしてレスターはけろりと言った。

「人間と、魔物…」

何故急にそんなプライベートなことを話し始めたのか。リオはますます訳がわからなくなった。

「どうしてか、って聞かれてもねー。なんとなーく二人ならわかってくれそうだなー、と思ってー」

それは自分達が普通じゃない境遇に生まれたから、今更驚かないし気味悪がったり嫌悪感を抱いたりはしない。

それもにおいで判るのだろうか。

「あんたはあの異常なまでの力を今まで隠してきたのか」

「…だって、気持ち悪いでしょー?ボスクラスの魔物を一回の攻撃で倒しちゃうなんて」

――今まで皆、そうだったから


倒すべき魔物の血が混じっているなんて!信頼出来ないわ!

いつ寝返るかもわからない奴に、背中を預けるのは無理だ

第一、そんな人間離れした力がある生き物は人間じゃない



「リオ君達は、普通の人間と違うにおいがしたんだー。だからもしかしたら、こんな僕でも受け入れてくれそーな…。そんな気がしたから話しただけ。もう僕は色んなこと言われ慣れてるし、」

「………った、よね」

「え?」

ルウが、口を開いた。

「今まで酷い扱いされて、寂しかったよね」

ルウもレスターと似た境遇にいたから、レスターの気持ちが痛い程わかった。

能力が知られ、差別や軽蔑されるのを恐れた、臆病者。

傷つきたくないけど、人のぬくもりに憧れた、小心者。

諦めていたものに触れた時の喜びはその人にしかわからないだろう。

焦がれたものを手に入れることの出来たルウは、レスターにはどんなふうに映っただろうか。

「…気味悪がったりなんかしない」

リオが真剣な瞳をして話し始めた。

「俺の…俺達の目的は、女神の果実を集めることだ。それは今回みたいに戦闘によって奪い返すしかないことの方が多い。俺達の中で、強すぎる、なんてことは有り得ない。だから…、」

……一緒に、来ないか?

「…本当に、良いの?僕、魔物なんだよ?」

「半分だけね」

「ルウちゃん…」

「俺だって、天使だけど天使じゃない」

「リオ君…」

「だから、私達と一緒に、」

「…来ないか?」



「………っ」


レスターの細い、金色の瞳から、涙が一粒だけ、落ちた。


誰も気づかなかった。


レスターが、へらりと笑った。


「…これから、よろしくね」



――…ありがとう…



[レスターが仲間に加わった!]

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