▽ 天使の努め
――世界樹。
天使界が創られたその時からずっとあるその樹は、有り余る生命力を蓄え、尚且つ静かにたたずんでいた。
しばらく世界樹を見上げていたリオは、大切に持っていた星のオーラを世界樹に向かって放った。星のオーラは光りながらふわふわと漂い、やがて世界樹の枝に溶け込んだ。
すると、世界樹は嬉しそうに葉を震わせて輝いた。リオは小さく口角を持ち上げた。
――足音が聞こえた。リオは真顔に戻り、さっと音の方に向き直った。
「星のオーラを捧げた世界樹は実に美しいだろう」
用事を終えたのか、イザヤールが現れた。
「リオよ、星のオーラを捧げたのなら――」
「オムイ様へ報告、ですね」
リオはイザヤールの言葉の先を言わせず、会釈をして階段を降りていった。
◆ ◆ ◆「そうかそうか、そんなに美しかったか。これはいよいよかも知れんな」
長老の間に再び来たリオは、オムイに世界樹の様子をありのままに話した。オムイは目尻に皺を寄せて、嬉しそうに頷いた。
「リオよ、わしら天使の役目は、星のオーラを集め 世界樹に女神の果実を実らせることじゃ」
「……女神の果実が実りし日、我らは天の箱舟によって永遠の救いを得る……」
オムイが目配せをすると、リオは天使界に古くからある言い伝えの一説を暗唱した。
「そうじゃ。世界樹がそれほど輝いていたのならその日は近いのであろう」
オムイは椅子から立ち上がり、威厳ある顔つきでリオに命じた。
「リオよ! 引き続き星のオーラを集めて来るのじゃ。イザヤールは供をせぬぞ!」
イザヤールが来ない。
つまり、初めて独りで人間界に降りるのだ。リオは気持ちが高ぶるのを感じた。
「はっ!!」
リオはすぐに祈りの部屋で今までの活動を記録し――天使たるもの、自らの行動を見直す為にこまめに記録をしなければならない、とイザヤールが言っていた――さっき通ってきた星型の穴から、人間界へ降りていった。
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