▽ ひとつめの果実
「オオオオ…我の力が…」
レスターに引き裂かれた切り口から、黒い力が滲み出してきた。
溢れ出た黒い力はジャダーマにしばらく纏わり付いていたが、やがて逃げるように消え去った。
「ここは、何処だ?そなたは…何故、ここにいる?」
黒い力が消えた跡には、大神官が倒れていた。
大神官は頭を押さえながら起き上がり、リオに尋ねた。
リオは自分達がダーマ神殿に着いてから今までのことを話した。
「光る、果実…。そうじゃ、わしは光る果実を食べた!その後はよく覚えておらん。覚えているのは…、自分が自分でなくなっていく恐怖だけじゃ」
大神官は我を失っていたらしい。果実に意識を奪われていたのだろうか。
「大神官さんねー、人間共を絶対の恐怖で支配する、って宣言してたよー」
レスターは大袈裟に震えてみせた。
「なんと…わしが魔物の姿となり、世界を支配しようと…。そなた達が、わしを救ってくれたのか」
さらに大神官は上の空で呟いた。
「ああ、ダーマ神殿に帰らなくては…。転職を待つ人々が、わしを呼んでいるのが聞こえるのじゃ…」
そして大神官はリオ達を置いて歩き去ってしまった。
「……」
「……」
「放置…」
「されたねー?」
「…されたな」
「……」
――キィ、ン!大神官が倒れていた所に、黄金の果実が現れた。
「ちょ、これって女神の果実じゃん!大神官のオッサンに食べられちゃった筈なんですケド!?」
急にサンディが姿を現した。
確かに大神官が食べてしまった筈の果実が完全体で戻ってくるなんて、なんたる都合の良いことか。
とりあえずリオは果実を手に取った。
[リオは女神の果実を手に入れた!]
「…ま、いいか。リオの探してるモノが手に入ったんだし、ここは喜ぶ所よね。それにしても、人間が女神の果実を食べるとロクなことにならないんですケド!!あーやだやだ」
サンディは呆れたように首を振った。
「ま、それはそれとしてアタシ達ももいちどダーマ神殿行ってみない?転職ってのにも興味あるし」
それだけ言って、サンディは視えなくなった。
リオは二人にダーマ神殿に戻ることを提案し、三人はダーマの塔を出た。
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