▽ ジャダーマ戦
魔物はゆらりと長い尻尾を揺らし、低い声で納得したように呟いた。
「ク、クク…。そうか、この力で人間共を支配すれば良いということか…」
(…果実の力に負けて狂ったか)
ダーマの神官はぐらっ、とリオ達に向き直り、また尻尾を揺らした。
「我はこれより魔神ジャダーマと名乗り、人間共を絶対の恐怖で支配することを此処に誓おう!」
独り言のように高らかに宣言し、リオ達を標的に定めた。
「丁度良い。貴様ら相手にこの力を試してくれよう。さあ…、恐怖に怯える姿を我に見せるが良いっ!!」
ジャダーマは、刺さったら痛そうな爪を振りかざした。
[魔神ジャダーマが現れた!]
リオ達はそれぞれ、戦いやすい距離を取った。
「どうしたら良いの?」
「…女神の果実がどれだけの力を与えるのか、全く見当がつかん。それに…」
リオはちら、とレスターの方に目をやった。レスターはジャダーマとの距離が一番短い。
(…あいつがどんな戦いをするかも、まだわからない)
リオ達はダーマの塔に来て、一度も魔物と戦っていない。従って、未だ武器を取らないレスターがどれくらい強いのか等は把握していないのだ。
[魔神ジャダーマの攻撃!]
ジャダーマは自分の一番近くにいるレスターを標的に定め、物理攻撃を仕掛けてきた。
しかしレスターは難なくかわす。
(ふむ…素早いし身かわしが上手い)
ジャダーマは攻撃が当たらないとわかると矛先をリオに変えた。
尻尾を使ってレスターを含めた広い範囲での攻撃を試みたが、それも跳んでかわされる。
自分に来ると思っていなかったのか、反応出来なかったレスターは腹にダメージを受ける。
「ちっ…」
リオは跳び上がった高さからそのまま剣を振り下ろした。
[リオの攻撃!]
ジャダーマの身体に傷はついたが、それほど大きなダメージは与えられていないようだ。
ルウも突きを繰り出すが、大したダメージには繋がらない。
(力不足か…。神殿で装備を見直すべきだった)
ダーマ神殿は転職をした人の為に様々な種類の武器防具を揃えたよろず屋がいたのだが、リオは全く見向きもしなかった。
ルウがそろそろ盾でも買わないと、と呟いていたのを聞き流していたのが仇になった、とリオは唇を噛む。
ジャダーマは物理攻撃が通らないと判ると、見た目軽装備なルウに的を絞り、呪文を使ってきた。
[魔神ジャダーマはバギを唱えた!]
ルウは咄嗟に逸れようとしたが間に合わず。むき出しの腕や脚に小さな傷をいくつもつくった。
「ルウちゃーん、大丈夫ー?」
「大丈夫だよ。“ベホイミ”」
[ルウの傷が回復した!]
ベホイミを使ったのは、それなりのダメージを喰らったことを意味する。
リオは初めて焦りの表情を見せた。
「レスター!こっちに来てくれるか!?」
レスターはジャダーマの頭を蹴って、その反動でリオの所へ飛んでくる、という荒業をやってみせた。
「何々ー?何か作戦?サポートなら喜んでやるよー」
「あんた、俺より力はあるか」
「…え?」
「俺達の攻撃じゃ、あいつにかすり傷しかつけられない。…もしかしたらあんた、凄い力が強かったりするんじゃないか?」
「な、何を急に…」
「あんたは此処に来ても魔物に襲われなかったのは、それなりの強さがあるからだ。魔物は、それを肌で感じ取る」
「買い被りだよー、リオ君」
「じゃあ、あんたが今素手でもジャダーマに俺と同様のダメージを与えられていることはどう説明する気だ」
「…じゃあー、頑張っちゃおうかなー?」
レスターは困ったようなよくわからない笑顔をして、自分の荷物からツメを取り出し、装備した。
(随分と早く見つかっちゃったなー。今回こそ、いけると思ったのにー)
レスターは走り出した。
「ルウ、レスターの回復を」
「うん。“ベホイミ”」
[レスターの傷が回復した!]
「ありがとー、ルウちゃーん」
――…ばいばい
[レスターの攻撃!]
レスターは左右の腕で一回ずつ、ジャダーマを斜めに引き裂いた。
[会心の一撃!]
たった一回の攻撃で、ジャダーマは呆気なく崩れ落ちた。
[魔神ジャダーマを倒した!]
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