アリアドネの糸 | ナノ

▽ 転職の塔

ダーマの塔に着くなり、馬鹿馬鹿しい、とばかりに不機嫌そうな顔をして、リオは扉に向かってお辞儀した。

ガガガガ…、ガタン!

塔の扉がひとりでに開いた。

「おおーっ。どういう仕組みになってるんだろー?」

レスターは楽しそうに塔の中へ入って行く。その辺に魔物がうろついているのにも関わらず、さっさと上に上がる階段を探しはじめた。

「そんなに激しく動いてたら魔物に気づかれちゃいますよー!!」

普段、魔物は鈍感で、人間が近くにいても気づかない。

しかし、走り回ったりするとさすがに気づき、襲ってくることもしばしば。

だがレスターは何故かそんなことはお構いなしにずんずんと侵入する。

「んー?大丈夫だよー、階段あったから早く行こーう」

何処からそんな自信がくるのか。

リオとルウは顔を見合わせ、レスターに着いていった。



◆   ◆   ◆




「それにしても、高い塔だな」

「昔の人、大変だったんだね」

かつて転職の儀式を行っていた、というが、何故わざわざ塔にしたのか。人間の考え方は理解できないな、とリオは独り言ちた。

「あー、また階段見つけたよー」

しかしこのレスター、とかいう男、よくもまあこんなにすんなりと初見の建物の構造を把握できるものだ。

「凄いね、レスターさん」

ルウがぼそっと呟いたのが聞こえたのか、レスターはくるりとルウの方を向いた。

「はい、ルウちゃーん?僕ももう一応旅仲間、ってことだから敬語は禁止」

勿論リオ君もだよー、と念押しされては、呼び捨てにせざるを得ない。

今までに見たことの無いタイプの人間だな、とリオは少し興味を持った。



◆   ◆   ◆




レスターの第六感(?)の働きにより、三人は割と早く塔の屋上に辿り着いた。

「すぐ近くに雲が見える…」

「高いねー」

呑気にルウとレスターは下界を見下ろし、それぞれ思ったことを口に出している。

リオも景色に目をやり、なかなか大きい島だな、と感想を持ってみた。

「ところで大神官様は何処にいるのかな?」

ルウがぽつりと小さな疑問を発した。そういえば塔の中には大神官らしき人はいなかった。

「あ、ねーあれ何かなー?」

レスターはとある一角を指さした。

リオとルウはその先を見る。

屋上の一辺から少し離れた空中に、不思議な、怪しい雰囲気の入り口が浮いていた。

屋上からその入り口に向かって、鍵盤のような足場が並んでいる

「…見るからに怪しいな」

「…うん。此処にいます、って言ってる。でも、落ちないかな?」

並んだ足場もひとつひとつ離れて浮いているので、不安定な気がしてルウは怖じ気づいた。

とりあえずリオが足を乗せてみた。

…動かない。

今更落ちたって大した怪我はしないだろう、と両足を乗せてみた。

…動かない。

「大丈夫そうだねー」

「うん」

リオ、ルウ、レスターの順に足場を渡り、未知の入り口へ飛び込んだ。



◆   ◆   ◆




着いた所は、サイケデリックな色と模様の、円形の部屋だった。模様は丁度、テレビの砂嵐のよう――尤も、この世界にテレビなどないが――に目まぐるしく動いているので、とても目に良くない。

床にも、何やら魔法陣のような模様が描かれていた。

部屋の真ん中に、白い式服を着た人が、こちらに背を向けて立っている。

多分、大神官だろう。

「全ての職業を知り、全ての職業を司る大いなる力よ!」

大神官であろうその人は両手を掲げ、何かに呼びかけ始めた。

「今こそ我に…、む?」

しかし途中でリオ達に気づき、こちらに振り向いた。

「何者じゃ…。ここへ入り込むなど、ただの迷い人ではないと見える…。じゃが…、わしの邪魔をすることは許さんぞ…」

大神官はまた背を向け、呼びかけた。

「わしは力を手に入れたのじゃ。この力があれば、わしは人々をより良き道へ導くことができる…」

ルウが不安そうにリオの袖を掴み、顔を見上げた。

「なんか、あの人…、凄く怖い」

「…俺だって怖い。人間は、いつも怖いよ」

――いつ、裏切られるかわからない。

ルウは俯き、そっと手を放した。

「わしはダーマの神官として人々の為に此処で祈り、さらなる力を手に入れるのじゃ!!今こそ我に力を!我に人々を導く力を与えたまえーい!!」

(…狂ってる)

大神官が叫んだ直後、頭上で虹色の光が輝いたかと思うと、黒い力がドーム状に大神官を包み込んだ。

「おお…、力が、力が満ちてくるぞ…」

大神官の感情に比例して、ドーム状の黒い力は大きくなっていった。

「な、何事じゃ…。身体が…」

黒い力の中に見える人影は、だんだんと形を変えていく。

「この身体は、何じゃ…?これでは、まるで化け物…。ぐうっ」

どうやら大神官は、果実の力を制御しきれていないようだ。

「黒い力が溢れて…。違う、わしはこんな力を求めていたのではない!」

リオは冷めた瞳で、成り行きを見つめていた。

――口ではそう言っても、あんたは人を“導く”力を欲した。

大神官を包んでいたドームが消え去ると、跡には魔物がいるだけだった。

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