▽ 旅は道連れ
神殿の地下には、ダーマに向かって旅をしてきた人々の為に、くつろぐ施設が用意されていた。
「光る果実なら、私が大神官様に食後にお出ししました。昼に食べるから皮を剥いてくれ、って頼まれたんです」
食堂のあるスペースのカウンターにいたメイドが、リオとルウにそう教えてくれた。
光る果実を見て、何の躊躇もなくナイフを入れたのかと思うと、ルウは何となく尊敬出来た。
「女神の果実を大神官様に渡した、っていう人は何処にいるのかな?」
「宿屋の方に行ってみるか」
◆ ◆ ◆「光る果実ならー、僕が大神官さんに差し入れしたよー?果物が大好き、って聞いてたから、お礼に、って感じでー」
近くのテーブルに座っていた金髪の男が、穏やかな顔と声でそう教えてくれた。
「何処で手に入れた」
「うーん、此処に来る途中で拾っただけなんだよー。でも僕は果物は食べないけどー、そういえばダーマの大神官さんは好きだったなー、と思ってー」
「…今、大神官様が居なくなってしまったのは知っていますか?」
ルウが恐る恐る、男に聞いた。
「うん。僕が転職させて貰ったすぐ後なんだよねー。なんだか責任感じちゃってー」
武闘家に転職した、というその男は、困ったように笑った。
「責任を感じている所悪いが」
リオがとどめの一言を放った。
「大神官が消えたのはその果実が関係している」
リオがあまりにもあっさりと言ってのけたので、ルウは咄嗟に相手を見た。
男は笑って細めていた瞳を開け――それでも金糸のような瞳だった――、きょとん、とした顔をした。
「…そうなんだ。じゃあ、責任、取らないと」
また、困ったように笑って。
「君達、きっと大神官様を捜しに行くんでしょー?僕も連れていってくれないかなー?」
リオとルウは、顔を見合わせた。
「人は多い方が何かと助かる」
「私も思うな」
「よし、決まりー。僕の名前はレスター、わかってるだろうけど武闘家ねー」
「リオ。旅芸人」
「ルウです。僧侶やってます」
「リオ君、とー、ルウちゃん、ね」
レスター、と名乗った男は、なかなか信用できそうな、感じの良い人だった。
「2人共、よろしくねー」
◆ ◆ ◆「なんと、大神官様がいなくなられたのは、光る果実が原因なのですか」
「そうかもしれないんです」
レスターを神官に会わせる訳にはいかないので、外で待たせてリオとルウだけで事情を話した。
「なるほど、その果実には秘められた力がある、と…」
神官は腕を組んで考え込む。
「!もしかすると…」
「他に心当たりがあるんですか?」
「かつて転職の儀式を行っていた、と言われているダーマの塔というのがここから東にあります。今は魔物の巣となっていてとても危険な所なのですが…。もしも、果実によって力を得たのなら、もうそこへ行ったとしか考えられません」
また面倒なことが待っていそうだ、とリオは内心、溜め息を吐いた。
「塔に入るにはある作法が必要なのです。扉の前に立ち、お辞儀を1回。きちんとしたお辞儀でないといけません」
一度やってみて下さい、と言われてリオは渋々お辞儀をする。
「おお、素晴らしい。これ程綺麗なお辞儀のする人はなかなかいません。これなら大丈夫でしょう」
伊達に優秀な天使をやっていた訳じゃない。イザヤールに弟子に取られてから、立ち居振る舞いや礼儀作法を厳しく仕込まれただけあって、普段の動作にも無駄がないのだ。
「どうか、大神官様を連れ戻して下さい」
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