アリアドネの糸 | ナノ

▽ 転職の神殿

「凄ーーいっ!“ルーラ”って凄く気持ちいいね!!」

リオが不思議な声に教えて貰ったこの島――アユルダーマ島にルーラで飛び、着地してからのルウの第一声。

一度行った町や村へ、飛ぶ、というのがお気に召したらしい。

「ルーラ一回だけでこんなに騒ぐなんて、リオってば満更でもないカンジ?」

「サンディちゃん!」

ルウはサンディを視るなり抱きついた。サンディも嬉しそうに手を回す。

「ルウーッ!久しぶりー!今日からまたヨロシクねー」

何だかんだ言って、サンディはかなりルウに懐いていた。

「こっから東にある建物は、ダーマ神殿って所だよ。転職が出来るんだとか」

サンディは思い出したように、ルウに抱きつきながら話した。

「人もたーくさんいると思うから、行ってみて損はないと思うんですケド!」

そう言って、サンディは視えなくなった。

「ダーマ神殿があるの?私、転職したかったんだよね」

「僧侶じゃ不満なのか」

「不満というか…、やっぱりリオだけに負担をかけたくないというか」

いつもリオが前線にいるのが申し訳ない、といった所か。ルウは律儀な性格のようだ。

「そんなこと、気にしなくて良い。ルウが無茶して怪我でもしたら、責任が取れん」

「でも私、回復の呪文まだそんなに覚えてないし…」

「気にするな。ルウはルウなりに頑張れば良い」



◆   ◆   ◆




ダーマ神殿は、ギリシア神話のパルテノン神殿のような様式で、神々しい雰囲気を漂わせていた。

神殿前には長い階段があり、両脇から滝が流れている。

「ふわぁ…凄いね…」

ルウは瞳を輝かせて、神殿を見上げた。目一杯背伸びをして、階段の最上階を見ようとしている。

「…階段は上った方が早いと思うぞ」

「あ、そうだね」←照

ルウは少々駆け足で階段を上る。

「おい!一体どうなっているんだ!」

急に、神殿から怒鳴り声が聞こえてきた。ルウはちょっとびっくりしてリオの方を見る。

リオも真剣な表情になり、急いでダーマ神殿の階段を上った。

「オレ達はわざわざ遠くから転職しに来たんだぞ!」

同じ声だ。どうやらかなりお怒りのようである。

「んだんだ。なけなしの金をはたいて旅して来たのに、転職できねぇってのはひどいでねぇだか!」

少し訛りの入った声も響く。

「わしゃあ、メイドさんになるために頑張ってここまで来たんじゃ!」

何やら老人の声も、誰かに抗議しているようだ。リオとルウはやっと声のする所にたどり着いた。

「申し訳ありません。只今、大神官様が不在でして…。もうしばらくお待ちを…」

代わりの神官なのか、ローブを着た男性が焦りながら応対している。

「そう言って、もう何日経ってる?いつまで経っても大神官は帰って来ないじゃないか!」

「本当に申し訳ありません。どうか、もうしばらくお待ちを…」

本当に困っている、といった様子だ。さすがにもう攻められなくなったのか、抗議していた人達は諦めて入り口近くの階段を降りていった。

早速、リオとルウは手の空いた神官に話を聞きにいった。

神官は転職が目的ではない、と知ると少しほっとしたようだった。

「…ほう、光る果実をお探し、と」

リオは簡単に、女神の果実について説明した。

「むむ、そういえば大神官様がそのような果実を、転職に来た者から受け取っていたような…」

「えぇ!?」

「その者はまだ神殿に留まっていたと思いますので、話を聞いてみると良いでしょう」


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