アリアドネの糸 | ナノ

▽ 餞別

リオとルウが連れ立って1階に降りてきた。

「ルウ!?もう平気なの?」

「うん。心配かけてごめんね、リッカ」

ルイーダは驚いた。

自分やリッカが何度部屋に行っても顔さえ出さなかったルウが、たった一度だけ、リオが声をかけただけでいつも通りの彼女に戻っていたからだ。

数日一緒にいただけで、こんなにも早くリオという男はルウの信頼を得ていたのか、と。

ルウは、ルイーダと向かい合った。

「ルイーダ。私、旅に出たい」

「旅なら、私は許しているわよ?」

「あのね、リオさんの探し物を手伝ってあげたいの。何処にあるか、あてのないものだから、しばらく帰らない」

ルイーダはそれを聞いても、何も驚かなかった。それどころか、

「いいじゃない。世界中を回って来なさいよ。必ず、帰ってきてくれれば私は満足よ」

――今が、渡し時ね…

そして、金庫番のレナに目配せをした。レナはニッ、と笑って、細長い包みを持ってきてルウに手渡した。

ルウは訳がわからないまま、とりあえず受け取る。

「…これ、私に?」

ルウの身長よりも高いそれは、少し重かった。

「そうよ。開けてごらんなさい」

ルイーダに言われ、ガサガサと包装紙特有の音を立ててルウは包みを開けた。

「ホーリーランス!」

中に入っていたものは、白金色をした槍だった。

「どうして、こんな高そうなもの…」

セントシュタインの武器屋にも売っていないものだ。何処で手に入れたのだろうか。

「ルウがいつかこの宿屋を出たい、って言うときの為の、私達からの餞別よ」

ルイーダは誇らしげに言って、ルウを古くから知っている従業員達を見回した。

「皆…、ありがとう!」

ルウは嬉しそうにホーリーランスをぎゅっ、と抱きしめた。

「これはね、ルイーダの提案なのよ?ルウはこんな所に収まる女じゃない、いつか絶対セントシュタインを飛び出して行く、って。私達にはこれくらいしか出来ないけれど…」

レナがウインクしてルウに教えてくれた。

「良かったな、ルウ」

「うん!ありがとう、レナ!私凄く嬉しいよ!」

「ルウ、絶対に帰ってきてね。約束。リオ、ルウに怪我させたら許さないんだから」

「ああ」

「よし、リオさんすぐ行こう!」

「まず荷物をまとめてこい」

「あ、そっか。じゃあちょっと待ってて」

ルウは急いで階段を上がっていった。

リオはルウが見えなくなるとルイーダの方を見た。

「…良いのか」

「リオなら、良いわ」

それだけで、リオはどれだけの信頼を向けられているかがわかった。

ルウが怪我や、その他色々なものにぶち当たっても、リオに任せる、ということだ。

「…ありがとう」



◆   ◆   ◆




「じゃあ、皆、いってきまーす!」

「「「いってらっしゃーい!」」」

リオとルウは宿屋の皆に見送られて、セントシュタインを出た。

リオはたった数日しか泊まらなかったのに、自分が既に宿屋の人々に、人間に受け入れられているのが嬉しかった。

「リオさん、始めは何処に行くの?」

そう言われて、リオは少し思い当たることがあった。

「…そろそろ、さん、ってのはやめないか」

「え?だって私より年上だし…」

「これから長く世話になるんだ。さん付けで呼ばれるのは、こそばゆい」

ルウは合点がいった顔をした。

――そっか、いつまでもリオさん、じゃ、なんだかよそよそしいよね。

「うん、わかった。これからまたよろしくね、リオ!」

「よろしく、ルウ」

[ルウが仲間に加わった!]

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