アリアドネの糸 | ナノ

▽ 再び、人間界へ

「とーちゃーく!」

天の箱舟は、淡い青色に輝く木の傍で停まった。

「地上では、この青い木の所にしか天の箱舟を停められないみたい。ココからは箱舟を降りて歩かなきゃ」

「別に問題はない」

「それじゃ、アタシは人捜し。あんたは女神の果実探し。ってコトで、早速こーどーかいしーっ!」



◆   ◆   ◆




リオはルーラを唱えてセントシュタイン城下町に着いた。

ルウはいるだろうか、と結構冷静に考えながら、宿屋の扉を開けた。

「リオ!随分長かったのね、お帰りなさい!」

カウンターからリッカが手を振ってくれた。

リオは1階を見回した。がしかし、目当ての人物が見つからない。

「…ルウは?」

「そのことなんだけど…。ルウね、十日くらい前からずっと部屋に籠もりっぱなしなの。関所の向こうの町で、何かあったの?」

どうやら、天使界にいる間は一週間以上が過ぎていて、リオの予想と反し、ルウはふさぎ込んでいるらしい。

リオは溜め息を吐いた。

――自分で勝手に帰っていったくせにそういうことして、期待させないでくれよ…。

「…ごめん。部屋、教えてくれるか」



◆   ◆   ◆




ルウは、転がっていた。

――これで、良かったの。何もないまま、このままで。嫌われた方が良い。忘れられないから。あの人は天使だから、人間の私とは関わっちゃいけない。


「…でも、やっぱりもっと一緒にいたかったな…」

呟いて、寝返りを打ったら。

ノックの音がした。

「…リッカ?、悪いけど今は誰にも、会いたくない、」

「俺にも、会いたくないのか」

…がばっと、跳ね起きた。

「リオさん!?ちょっ、と待って!」

ルウは慌てて扉を開けた。

リオが、少し疲れた瞳をして、立っていた。

(嘘!天使界に還ったんじゃなかったの!?)

「部屋から、出てないんだってな」

「う、うん…」

ルウは、少しびくつきながら返事をした。

「それは期待しても良いのか?」

期待、と言われて、ルウは首を傾(かし)げた。

「何のこと?」

リオは、天使界に戻ったあと、世界樹で聞いた不思議な声の話をした。

ルウの瞳が、少し生気を取り戻したように見えた。

「…それ、私も連れていってくれるの?だからわざわざ、来てくれたの?」

「そうだ。俺一人じゃ、かなり厳しいんだ。都合の良い訪ね方で悪いんだが…」

「ううん。私を頼ってくれるってことだよね?そう、考えても良いの?」

リオはちょっと顎を引いた。

ルウの表情が、みるみる明るくなってゆく。

「…行く!連れてって。私、リオさんのこと手伝いたい!」

リオはふ、と笑顔を見せた。

「…ありがとう」

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