アリアドネの糸 | ナノ

▽ 必要なもの

リオが天の箱舟の扉を開けると、中でサンディが何かぶつぶつ言いながら、ふよふよと行ったり来たりしていた。

「何であのオヤジいないかなー?ここまで来たら顔ぐらい見せるでしょ。…もしかして箱舟が落ちたとき、人間界の何処かに落ちちゃった?捜すのチョーダルいんですケド」

そういうことは口に出すべきでは無いのではなかろうか。

「でもテンチョーいないとバイト代貰えないし…」

どうやら運転士はバイト制らしい。

そんな悩めるサンディと、リオの目がぱち、と合う。

「あれ?もしかしてリオじゃん。実はアタシ困ってたんだよね。ちょっと人捜しで、人間界戻らなきゃなんなくて」

「そのことなんだが…」

リオはオムイから、女神の果実を回収することを命じられたことを話した。

「ちょ、マジ?あんたも天の箱舟で人間界行きたいワケ?」

「…翼がないからな」

リオがちょっと拗ねたように言った。それを無視して、サンディは操作パネルへ飛びついた。

「それ、いい!協力するする!!よし、一緒に行こー!」

サンディは、パネルをピコピコといじくり始める。

「…でも、天の箱舟ちゃん壊れてるんですケド。また人間界行けるのかなー?」

うーん…とサンディがスコープを使って人間界を見下ろした。

「あれ?何あの青い木。箱舟ちゃんで降りれるっぽい?」

世界樹で聞いた、不思議な声が教えてくれた木だった。

「…よくわかんないケド、行くっきゃないしょ。じゃ、改めて、人間界行ってみよーっ!!」

ポォォーーーーッ…

天の箱舟は汽笛を響かせ、人間界へと向かって行った。



◆   ◆   ◆




「人間界行って、ひとりで果実探すの?」

「どうしてそんなこと聞くんだ」

「せっかくだから、ルウと仲直りしなよ」

人間と深い関わりを持つのは確かに良くないが、あまりにもあっさりした別れをして、後味が良い訳がない。

「ルウが自分から望んだことだ。今更、何も言わなかった俺に何が言える」

傷つかなかった、と言えば嘘になる。

でも、翼と光輪が戻らなかったら、人間界にいても良い気がした。

赦される、気がした。

「ねぇ、ルウってサ、そんなこと気にする人?」

「…いや」

「ちゃんと事情話したらさ、一緒に頑張ろう、って言ってくれる人じゃん。リオがひとりで頑張ってるのを見て、大人しくしてるコじゃないでしょ」

――待つ方だって、辛いのに、一緒に…戦いたいのに。

前に、エラフィタ村でルウが言っていたことを思い出した。

ふ、とリオは口元を綻ばせた。

――もし会いに行って、喜んでくれるなら、それはそれだ。嫌われるなら、はっきり言って貰った方が良い。

「…サンディの言う通りだな。あの木に着いたら、まずセントシュタインに。ルウに、会いに行く」

「りょーかいっ」

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