▽ 天使の贈り物
フィオーネ姫にセントシュタイン城に呼ばれたリオとルウは、町に戻ってすぐに玉座の部屋へ赴いた。
「おお! リオか! よくぞ戻った! 話は全て、フィオーネから聞いておる! 連れの娘もまことに大儀であった!」
セントシュタイン王は、リオの姿を見るなり、玉座から立ち上がって二人を労った。
「思えばあの黒騎士も憐れな奴だったのう……。ワシも少し反省しておるよ」
セントシュタイン王は、素直に自分の過ちを認めた。
「それにしてもお主は実に天晴れな旅人だ! ワシはお主が気に入ったぞ! よし、それでは約束通りお主に褒美を授けよう。城の宝物庫の鍵を開けておくから、そこにある宝を遠慮せず全て持って行くが良い!」
何とも太っ腹な王様である。リオは小さく頭を下げた。
「おお、そうじゃ! それからもう一つ、黒騎士事件のせいで通れなかった北東の関所も通れるようにしておいたぞ。関所の向こうには大きな町がある。覚えておくと良いじゃろう」
「リオ様、この度は本当にありがとうございました。この城にもまたいらしてくださいね」
「うむ。ワシらはここでお主の無事を祈っておる。また会おう! セントシュタインの救世主、リオよ!」
◆ ◆ ◆「……すご」
リオとルウは、兵士に案内されて城の宝物庫に入った。狭い宝物庫には、かなりの量の金銀財宝が所狭しと積まれている。
「こんなにもらってどうしろというんだ」
第一、俺は天使界に還る身なのに。リオはぼそっと呟いた。
「ルウ。俺は地上の宝なんかに興味はない。お前が好きなだけ選べ」
ルウはものすごい勢いで首をぶんぶんと振った。
「もらったのはリオさんだもの。私はもらえないよ!」
もらってしまったら、リオが還ることを嫌でも意識してしまって、ルウは悲しかった。
(リオさん……還って欲しくないな……)
ルウが俯いていると、リオが穏やかな声で言った。
「俺がもらっても天使界(うえ)では使えない。だから、地上(こっち)で一番世話になったルウのためにもらうんだ」
「それってリッカじゃ、ないの?」
「……リッカは宿屋に泊まる方が喜ばれると思ったんだが」
(た、確かに…)
ルウは独り、納得した。そして小さく笑う。
「じゃあ、せっかくだし……思い出にひとつだけもらっておこう、かな」
ルウはそう言って、少し胸が痛くなった。
(バカだな、私……自分で言ったくせに。でも、還っちゃ嫌って……言えないよ……)
やがて考えていたことを追い出す首を振った。さっそくきょろきょろと宝物庫を見渡し、輝く山を物色。
「……あ、」
そして、小さな金色のロザリオを手に取った。
「私、これに決めた」
(これで、毎日リオさんの無事を祈るの)
ルウは自分の手の平に収まるくらいのロザリオを、両手できゅっと包みこんだ。
「ロザリオくらい、持ってるだろうに」
何故髪飾りとか、そういうアクセサリーみたいなものは選ばなかったのだろうか。リオは疑問に思った。まあ、短い付き合いの範囲で、ルウらしいとも思えたが。
「ううん、リオさんがくれるんだからこれが良い」
ルウはとても満足そうに微笑んだ。
――とくん、
「……そうか」
◆ ◆ ◆二人がセントシュタイン城を出ると、サンディが姿を現した。
「やったじゃん、リオ! あんたのおかげで国中に星のオーラが溢れ出てるのよ!」
「……は?」
リオは町の方に目をやったが、もちろん何も視えなかった。
「あ、そういえばあんた星のオーラ視えないんだっけ! 超ウケる! それより、ここまですればさすがに神様もアタシらのこと見つけて、天使界に還してくれるっしょ!」
サンディがうきうきしながら言うと、ルウが小さく、身体を震わせた。
リオはそれを見逃さなかった。
「……そうだな。まだ、リッカの所には泊まってないから……明日、還る」
サンディはリオの発言が何か言い訳のように聞こえたが、あえてそれを無視して、承諾した。
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