▽ 事件の黒幕
リオとルウは城跡の建物に入り、探索を進めていた。最深部に向かおうと階段を見つけては降り、やがて大きな部屋にたどり着いた。
ボロボロになった天蓋付きのベッド。放置されていたにしてはまだ綺麗な本棚。古い型だが豪華な飾りのついたタンスにクロゼット。そして壁にかけてある、女性の絵。
ルウは肖像画に近づいた。
「この絵……フィオーネ様そっくり……。白いドレス着てるし、この人が白百合姫、なのかな?」
絵の女性は白いドレスを着て、首に大きな首飾りをつけていた。穏やかな雰囲気も、フィオーネ姫にとても良く似ていた。
「……多分。ここはメリアとかいう姫の部屋なんだろう」
――ガタン、
「……なんだ?」
「上から聞こえたみたい」
リオとルウは同時に上を見上げ、顔を見合わせた。
「レオコーンか?」
「何かあったのかな……?」
◆ ◆ ◆二人は部屋を出て階段を上がり、廊下を突き進んだ。途中に開いている扉を見つけた二人は急ブレーキ。そのまま呼吸を整えた。
「この辺りが真上になるのか」
「扉、ちょっと開いてるよ」
二人は息を潜めて、部屋の中をそうっと覗き込んだ。
扉からレッドカーペットが真っ直ぐ敷かれ、その先に玉座が置かれていた。レオコーンがカーペットの途中に立って、玉座の方を向いている。
玉座に座っていたのはメリア姫ではなかった。
大きな蝙蝠のような翼を生やし、床に届きそうなほどの長い髪、赤い目をした、女の魔物だった。
レオコーンと魔物はじっと睨み合っている。
「ククク……お帰りなさい、レオコーン。随分捜したけど、やっぱりここに帰ってきたのね」
魔物は、妖艶な声で言った。
「貴様は……イシュダル……! ……そういうことか……。今、全てを思い出した……。私は貴様を討つべくこのルディアノ城を飛び出し……」
レオコーンがイシュダルと呼んだ魔物はクス、と笑って玉座から立ち上がる。
「そして私に敗れ、永遠の口づけを交わした」
そしてイシュダルはまとわりつくような声音で続けた。
「……貴方と私は数百年もの間、闇の世界で二人きり……。貴方は私のしもべ……そうでしょ? レオコーン……」
「黙れッ!!! 貴様のせいで……メリアはっ……!」
今まではメリア姫≠ニ呼んでいたレオコーンが、急に親しい呼び名を使った。二人はそれほどの仲であったことを物語っている。
レオコーンは剣を抜き、イシュダルに飛びかかった。しかしイシュダルは動じず、妖しく口元を歪ませた。
――バシュッ!
イシュダルの赤い目が光り、レオコーンに向かって黒い光を走らせた。一瞬のことだったので、レオコーンは避けられず押し返され、床に崩れ落ちた。
レオコーンは立ち上がろうとするが――
「ぅぐわぁぁーーーっ!!」
黒い光がたちまち彼の身体を蝕みはじめた。
「ククク、バカな男…。あの大地震のせいで私の呪いは解けてしまったけど……いいわ、もう一度かけてあげる。2人きりの闇の世界に誘(いざな)う、あの呪いをね……」
「おい、ルウ!」
見ていられなくなったルウは部屋の中に飛びこんだ。レオコーンとイシュダルの間に立ち、背中の槍を手に取ってイシュダルに向かって構える。
「アラ、なーに、アンタ? まさか……レオコーンを助けようってんじゃないだろうね?」
ルウは無言でイシュダルを睨みつけた。
「ククク……アンタもバカねぇ。この男にかけられた呪いの威力を見ていなかったの?」
「あなたに何がわかるの!? 大切な人を失ったレオコーンさんの気持ちも考えないで……! 許さない!!」
ルウはリッカの宿屋でルイーダと争ったときよりもすごい剣幕で言い返した。だがイシュダルは涼しい顔をして言った。
「フフ……良いわよ。それじゃ、アンタにもかけてあげる。私のとびっきりの、」
突然、ルウは腕を掴まれ、重心が後ろに移動した。
「呪いをねッ!!」
バチィィッ!!
いつのまにかリオがルウの前に立ち、黒い光を弾いた。
「リオさん!」
「ったく、勝手な行動はやめてくれ。リッカとルイーダに顔向けできなくなる」
なんと、リオにはイシュダルの呪いは効かなかった。リオ内心レオコーンと同じめに合うのを覚悟した。ルウが無事なら自分の身体はどうなっても良い、と思った。
とにかく何事もなくてほっとした。
「なっ……なぜ!? 私の呪いが効かない!?」
イシュダルは意外な結果に驚くばかり。しかし、どうしてリオはイシュダルの呪いを弾くことができたのだろうか。
「お前は何者だっ!? 人ならば私の呪いにかかるはず………もしやお前はっ!?」
なるほど、光輪や翼が失くなってもリオはまだ天使であるらしい。
「クッ…! こうなったら……。ズタズタに切り刻んで、あの世へ葬ってやる!」
イシュダルは短剣を抜いた。
「死ねぇぇぇいッ!」
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