▽ 黒薔薇の騎士
闇に潜んだ魔物を狩りに
黒薔薇の騎士立ち上がる
見事魔物を討ち滅ぼせば
白百合姫と結ばれる
騎士の帰りを待ち兼ねて
城中皆で宴の準備
――それから騎士様どうなった?
北ゆく鳥よ伝えておくれ
ルディアノで待つ白百合姫に
黒薔薇散ったと伝えておくれ
――北ゆく鳥よ伝えておくれ
■■黒薔薇散ったと伝えておくれ
「……とまあ、こんな感じですが、いかがですかな?」
とリオに聞いてきたのは、今し方黒薔薇わらべ歌を歌ってくれた、フィオーネ姫の婆やをしていたというソナ婆さんだ。テーブルを挟んだ向かいに座っているのは、合いの手を入れてくれていたクロエ婆さんである。
「ところで、なぜこんな歌をわざわざ田舎の村まで聞きに来たのですか?」
ソナ婆さんは、穏やかな笑みを浮かべてリオに優しく聞いた。リオは簡潔にさらりと答えた。
「……ルディアノという名の王国を探しているんですが」
「なるほど。それならやはり、北ゆく鳥よ、のフレーズかもしれませんね。歌の通り、北に向かってみてはいかがでしょうか?」
「……情報、感謝します」
ソナ婆さんとクロエ婆さんは、リオの無愛想な態度にも嫌な顔ひとつしないで、最後には笑顔で送ってくれた。リオが人と話すことが苦手だが、リオなりに努力していることをわかってくれたのかもしれない。
リオは建物を出て、エラフィタ村の出入口に向かった。
「たっ、助けてくれーっ!」
男性の声がした。その男性は、ものすごい勢いで村に駆け込んで来た。何かに追われているようだ。
追いかけていたのは……、レオコーンだった。
「ひぃーっ! お助けーっ!!」
「木こりよ、何故逃げる……? 私は話を聞きたかっただけだ。お前には何もしない、安心しろ……」
レオコーンも、ルディアノ王国の情報を集めていたようだ。
「う……嘘こくでねぇ! オラ、森の中であんたのことを捜してる女の魔物に出会っただ! 真っ赤な目を光らせながら、我がしもべ、黒い騎士をみなかったか……ってよ! あんた…魔物のしもべなんだろッ!?」
「この私が魔物のしもべだと……? 何を馬鹿なことを……!」
「……レオコーン、怯えているんだ。それくらいにしてやってくれ」
あまりにも木こりの男性が可哀相に――ただ、これ以上見ていても面白くないとも――思えてきたので、リオは横槍を入れた。
「そなたは……リオと申したな。 なぜこのような場所にいるのだ?」
「知っている奴が、この村の人からルディアノを聞いたことがあるって言っていてな。確かめに来たんだ」
知っている奴とは、言わずもがなフィオーネ姫のことである。
「……そうか、ルディアノ王国の手がかりを……。こんな私のために、すまない……」
見た目はともかく、騎士であったことには変わりはない。レオコーンは慎み深い紳士であった。
「それで、何か分かったのか?」
レオコーンが期待するような声で聞いた。リオは少し迷ってから、ずっと気にかけていたことを口に出した。
「……黒薔薇の騎士って、あんたのことか?」
「黒薔薇の騎士……確かにルディアノではそう呼ばれていたが、そなたがなぜそれを……?」
リオは先ほどソナ婆さんとクロエ婆さんが聞かせてくれた、黒薔薇わらべ歌の話をした。
「……何っ! 私のことがわらべ歌になっていた、だと……!?」
仮面越しの表情はわからないが、さぞ驚いているに違いない。
「どういうことだ……。私がお伽の国の住人だとでもいうのか……!? ……北ゆく鳥……わらべ歌にあった手がかりはそれだけか……」
レオコーンはリオの方を向いていたが半回転し、村の出入口へ方向を変えた。
「良かろう! ならば北ゆく鳥を追うことにしよう! 真実を掴むために!!」
レオコーンは馬を走らせ、北へ向かってエラフィタ村を飛び出して行った。
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