▽ エラフィタ村へ
エラフィタ村にいるという昔フィオーネ姫の婆やだった人のわらべ歌に、ルディアノの情報があると聞いたリオ。しかし黒騎士戦の時からまだ一睡もしていないリオは、一度休むためにリッカの宿屋に戻った。
「リオ! お帰りなさい!」
リオが宿屋の扉を開けると、リッカが笑顔で迎えてくれた。
「はい、これ」
カウンターに向かうと、リッカは唐突に鍵を差し出した。
「……俺はまだ何も言ってないが」
「ルウに頼まれたのよ。リオは疲れてる、帰ったらきっと倒れちゃうから、って」
ルウだって疲れているだろうに、自分のことを優先して考えてくれていたことに、リオは何だかこそばゆくなった。
「……で、肝心のルウは」
「寝てるわ。帰ってすぐリオに部屋を用意してあげて、って言って、あなたはどうするの? って聞いたら『あ、私も寝る……』ってフラフラしながらいったよ」
「……部屋、ありがとう。日が高くなるまで休む」
「お部屋ありがとうはルウに言ってね。ごゆっくりー」
◆ ◆ ◆昼過ぎになってリオが起きてきた。
「おはよう、リオ。……あなたちゃんとゆっくり休んだ?」
「日が高くなったから起きただけだ」
「このあとどうするの?」
「エラフィタ村に行く。黒騎士の件はまだ終わっていないからな」
「ひとりで?」
「……一緒に行きたいのか?」
「ち、違うよ! ルウ! ルウを連れてかないのか聞きたかったの!!」
途端、リオは僅かに眉を上げた。
「あいつに頼んだのは黒騎士退治の同行だけだ。別に普通に出かけるだけだから連れていくも何もない」
と、一息で言った。「そ、そう……」とリッカが圧倒されている間にリオはさっときびすを返して宿屋を出て行った。
セントシュタインから北に行って橋を渡った先にあるシュタイン湖からさらに西に行くと、それはそれは大きな麦畑が見えてくる。それを道に沿って抜ければ、エラフィタ村はすぐそこだ。
何年もの時間をウォルロ村で過ごしたきたからか、リオはエラフィタ村に近づくにつれて何だか懐かしい気分になってきた。セントシュタイン城下町での人の多い生活に慣れていなかったのだろう。自分は人間を相手するより魔物を相手する方が断然得意だから、当然の結果なのかもしれない。
そんなことを考えていたら、いつの間にか大きなご神木が見えていた。
エラフィタ村の前に着いたのだった。
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