アリアドネの糸 | ナノ

▽ 王の依頼

我が国に 黒き鎧を身につけた
 正体不明の騎士 あらわる。
 騎士を討たんとする勇敢な者は
 我が城に来たれ。素性は問わぬ。
     セントシュタイン国王

城下町の最新情報が書かれているという中央に設置された看板には、そのようなことが書かれていた。リオが看板を見つめていると、サンディが現れて嬉しそうに言った。

「これ、まさに困ってるパターンじゃない!早くお城にレッツゴーよ!」

「……ああ、そうだな」



◆   ◆   ◆




リオがセントシュタイン城に向かい看板を見たことを伝えると、門番の兵士は喜んで通してくれた。よほどその黒騎士に悩まされているようだ。

案内された王の間から、何やら口論しているのが聞こえてきた。

「フィオーネよ、何度言えばわかる! あの者に会いに行こうなど、このワシが許せる訳無かろう!!」

「いいえ、お父様! あの黒騎士の目的はこのフィオーネです! わたくしが赴けば国の者は皆、安心して暮らせることでしょう!」

「バカを申せ! 自分の娘をあんな不気味な男に差し出す親がどこにいるのだ!」

詳しくはわからないが、黒騎士はセントシュタイン国王の一人娘であるフィオーネ姫を狙って現れたらしい。フィオーネ姫は黒騎士の要求を飲もうとしているが、セントシュタイン王は断固反対の姿勢を見せていた。いくら一国の王とはいえ、娘の前ではただの親なのだ。

リオを案内してきた兵士が、気まずそうに咳ばらいをした。

「! ……客人か。すまなかったな。こちらへ参られよ」

セントシュタイン王がリオに気づき、近くに呼び寄せた。

「王様。こちら、黒騎士の件について登城した旅人です」

「おお、そうか! 黒騎士退治を引き受けてくれると言うのだな! おぬし、名をなんと申す?」

「……リオ」

「それではリオよ、よく聞いてくれ」

セントシュタイン王は、黒騎士が現れた日のことや彼の姿について詳しく説明してくれた。

黒騎士は突然現れた。兵士の抵抗も虚しく、何人かに傷を負わせたそうだ。そして彼は、フィオーネ姫を城の裏手にあるシュタイン湖というところに届けるように、と言い残して去っていったそうだ。しかしそれは黒騎士の罠だとセントシュタイン王は言う。

なぜならフィオーネ姫を届けるとなると護衛をつけざるを得なくなり、守りの薄くなった城を黒騎士は再び攻めてくるに違いない、とセントシュタイン王は考えているようだ。

「ワシはおぬしのような、自由に動ける人材が欲しかったのだよ」

これでどちらに転んでも安心だ、とセントシュタイン王は満足げに言った。

「そんな、お父様……! 見ず知らずの旅の方を巻き込んではなりませぬ!」

「お前は黙っていなさい。断じてあやつの好きなようにはさせん」

「あんまりですわ……。わたくしの気持ちを少しもおわかりになろうとしないで……」

フィオーネ姫は走って王の間を飛び出してしまった。

「おい、フィオーネ! ……すまんな。フィオーネは正義感の強い娘……。この件に責任を感じておるのだろう」

セントシュタイン王は椅子に座り直して続けた。

「ではこれからシュタイン湖に赴き、黒騎士の所在を確かめてきてくれ。もし、奴がそこで待っておったらおぬしの腕の見せどころじゃ! そのまま叩きのめして参れ! これが上手くいけば褒美を取らせるからな。しっかり頼んだぞ、リオよ!」

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