アリアドネの糸 | ナノ

▽ 希望の乙女

「ねぇ、リオ。あなたがリッカを説得してくださるかしら?あの才能を埋もれさせるのは惜しいと思うの」

ルイーダはリオに手助けを求めた。はいわかりましたと行動するつもりはないが、リッカのやりたいようにさせてやるためなら協力しようとリオは思う。

とりあえず、リッカの家に泊まると言うルウを連れて一度家に戻った。



◆   ◆   ◆




「っあ……」

家の前に来てルウは歩みを止めた。誰かが扉の前に立っている。リオ達に背中を向けているため、顔はわからない。

「……おい」

「うひゃあっ!! お、驚かさないで下さいよ!!」

「……悪い」

誰か、とは言わずもがな霊である。霊が振り返ると、リオがキサゴナ遺跡に行った際に先へ進むためのヒントをくれた霊だった。

「わ、私のこと視えるんですね!? キサゴナ遺跡でも視えていたようですし……。不思議な……人ですね」

雰囲気が誰かに似ているな、とリオは思っていたが、正体はリッカの父親、リベルトその人だった。

「おじさん! 私のこと、わかりますか?」

「おや、君は……ユリウスの娘かい!? ルウちゃんだ、大きくなったねぇ……。ヘヴンが見たら驚くだろうねぇ」

リベルトは目尻に皺を寄せて懐かしむように語った。ルウはそれを聞いて笑ったが、切なそうな雰囲気もたたえていた。

「そういえば、あなたのお名前は?」

「……リオだ」

「リオさんですか。……って、守護天使様!?」

「ちょっと待ったーーっ!!」

「……痛っ」

甲高い声が響き、何かがリオの頭に当たって弾けた。

突然、肩までの金髪につり目、黒い肌に濃い化粧と短いオレンジのワンピース、といった風貌に、背中には透き通るピンクの羽、といったまるで妖精のような容姿をした少女が現れた。

「いったーい……ちゃんと避(よ)けなさいよね!」

そして横暴な発言をする。この謎の生物はなんなのだろうか。

「そこのオッサン!! 今の話、聞き捨てならないんですケド!」

謎の少女にびしっ!と指さされてリベルトは困惑した。

「え? 守護天使様のことですか?」

「そう! こいつには頭の光るワッカも、背中の翼も無いのヨ! これって変くね!?」

確かにまっとうな意見である。

「変といえば……あなたこそ誰なんですか?」

「それを聞いちゃいマス?」

謎の生物はニマッと笑い、キュピーン★とポーズを取った。

「アタシは謎の乙女(ぎゃる)サンディ。あの天の箱舟の運転士よっ!!」

「……はぁ」

しばし沈黙。

「さぁ、アタシは名乗ったんだからあんたも正体教えなさいヨ! 霊や箱舟が視えちゃうあんたは一体何者!?」

「……別に、特別なもんって訳じゃない」

リオはルウに話したように、天使界でのあの悲劇の日の話をした。還る方法がわからないこと、果たして自分はまだ天使なのか――

「ふーん。本当に元は天使だったんだ。ハネもワッカもないくせに、霊や箱舟は視えるってハンパな状態じゃ、イマイチ確信が持てないんですケド」

当然だ。サンディが天使界の関係者なのかは定かではないが、リオが彼女の立場でも同じことを思うだろう。

「じゃあ、あんたが魂を昇天させてみなさいヨ。ちょうどユーレイのオッサンもいる事だし、それができてこその天使ヨ! できたらアタシがリオを箱舟で天使界まで送ってあげるワ!!」

「リオさん! それじゃあ……」

「!? お前、サンディまで視えて……?」

今まで何も喋らなかったので、ルウはてっきり視えていないとリオは思っていたようだ。急に声を発したルウの方を咄嗟に向く。もちろん、サンディも反応した。

「何……コイツも天使なワケ?」

「いや、ルウは不可抗力で視えるだけだ。何も関係無い。……それより、天使界に還すっていうのは本当なんだな」

「モチロン、魂を昇天させることが出来たらヨ」

「……充分だ」

「なんだか変なことになりましたね……じ、じゃあお願いします」

「単刀直入に聞く。あんたを地上(ここ)に縛っているものは何だ」

「何だろう……宿屋の裏に埋めたあれかな?」

リベルトはそう答えて、ルイーダが待っているであろう宿屋の方をちらりと見た。

リオはすぐに行動に移した。

宿屋まで走り、辺りの地面を触ってみた。掘ったような跡は見つからない。だいたい、いつ埋めたかわからないのだから残っているとも限らない。

駄目元で近くの茂みを掻き分けた。一部の芝の生え方が不自然なようにリオには見えて、そこの地面を掘ってみた。

「!!」

なんと、茂みの下から出てきたのは金色に輝くトロフィーだった。

“汝を宿王と認め、これを贈る
 セントシュタイン国王”

トロフィーには、そう刻まれていた。リオはトロフィーを持ってリッカの家に戻り、リベルトに見せた。

「わ、凄く立派なトロフィーだね」

「ああ、懐かしいな……。私が自ら封印したんですよ。リッカのために、セントシュタインへの思いを断ち切るために……」

セントシュタインへの思い。――つまりリベルトは夢を諦めていなかったのだ。リオはリベルトの望んでいることを理解した。だがリッカもそれを望んでいるとは限らない。

望んでいないとも限らない。

リオは自分にできるだけのことをして、後はリッカに決めさせようとリッカの家に入った。

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