▽ ルウの過去
「俺が、視えた……?」
リオは驚いた。自分が驚かれるだろうと思ったから、尚更だ。
「私、小さいころに魔物に襲われたことがあるの。そのとき私の代わりに父さんと母さんが死んで、そのショックかわからないけど特別なものが視えるようになったんだ。初めて視たのは、霊になった父さんと母さんだった」
ルウは俯きながら、碧い瞳を少し潤ませてぽつぽつと話しだした。
リオは黙って聞いていた。
「だけど誰も信じてくれなかった。まだ父さんと母さんが居るつもりなんだ、妄想だって勘違いされた。小さかったから、仕方のないことなんだけど」
ルウは変わった子だと思われていたのだろう。誰も信じてくれないなら、隠そう。小さかった彼女は考え、人に話さなくなったという。
「それでね、ウォルロ村に遊びに行ったとき、たまたま翼のある人を見つけて……」
―――――
……とく、ん……
急に、暖かくなった気がして、何となく惹かれる方向に振り向いた。
バサッ!
「……え?」
――飛び立つ瞬間だった。
目の前の存在に驚きつつも、ルウは自分がどうして色んなものが視えるようになったのか、知りたくて駆け寄った。
「あ……待って!」
だか、間に合わなかった。純白の羽根を残して、二人の天使は飛び去ってしまった。
―――――
「その時の天使が俺だったのか」
「うん。これは、そのときに拾った天使様の羽根」
ルウは肌身離さず持ち続けていた羽根をリオに見せてくれた。だが、ルウは不思議そうに首を傾げた。
「天使様が――正確には天使様の翼が近くにあると何か反応するんだけど……」
「けど、何だ?」
「キサゴナ遺跡でも反応があったの。おかしいな、リオさんには翼がない……よね?」
「……あぁ、」
リオは思い出したように、リッカか渡してくれたあの羽根を取り出した。
「それ……天使様の?」
リオはゆっくり頷いた。
「数日前に大きな地震があっただろう。そのとき俺の故郷では謎の襲撃があった」
忘れもしないあの日に、天使の悲願が叶うはずだった。
リオは静かにその日のことを話した。いつも通りに村を見て回り、いつも通りに星のオーラを集めて、いつも通りに世界樹に捧げた、はずだった。そして女神の果実が実った瞬間、悲劇が起きた。
ルウもまた静かに話を聞いていた。時おりリオの手元を見る以外は、ずっとリオの瞳を見つめていた。
「これ……」
リオの話が一通り終わると、ルウが指でリオの持つ羽根の赤い部分に触れた。
「俺の血だ」
「あ、そうじゃなくて……天使様の羽根、なの?」
「……俺の羽根だ」
それはつまり、リオが天使だったことを意味する。ルウはまた、やっぱり、という顔をした。
「やっぱり、この羽根は本当に天使様の羽根なんだ。リオさんが天使様だって、私は信じるよ。私の話をちゃんと聞いて、信じてくれたから」
ルウはそう言って、ふわりと優しく笑った。
「……戻るぞ」
リオはふい、と向きを変え、ウォルロ村に向かって歩きはじめた。
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