アリアドネの糸 | ナノ

▽ 希望の舟

「ピキーッ!!」

[スライムは逃げ出した!]

「……弱っ」

「お前が強すぎんだよ!!」

村の人達に気づかれないようにこっそりウォルロ村を抜け出した――最近、地震のせいか魔物が増えてきたから、村の外には出るな、と言われていた――リオとニードは、襲ってくる魔物を倒しながら峠の道を目指していた。

「お前、ホントに何者なんだよ?」

ニードは慣れない手つきで剣を鞘におさめながらリオに問うた。彼は魔物と戦った経験はあるようだが、それでもリオとは比べものにならなかった。すでに顔には疲れが見えはじめている。

「……天使の名を騙ってタダ飯にありつこうとする売れない旅芸人」

「だぁーッ!! それは謝るって!」



「……別に、ただの旅芸人」

「嘘だ……」



◆   ◆   ◆




「着いた……」

安全な場所まで来ると、ニードは膝に手をついて安堵の息をもらした。

「ホイミ使いすぎたからMPがもう無い」

「なっ……! オレが弱いって言いたいのか!?」

「……別に」

「あーっ!! 絶対思ってるな!?」

いい加減疲れてきた。とリオは盛大に溜め息を吐いた。

「煩い。だいたい……」

話しながらリオはある一点に目を向け、そこに何かを見つけてはっとして歩くのを止めた。

「どうしたんだよ?」

リオが目を見開いて見つめる先をニードも見てみるが、

「木が倒れてるだけだろ? それがそんなに珍しいのか?」

ニードには視えなかった。当然だ。リオが見つけて凝視しているのは木などではなく、その木を倒したもの――天の箱舟だったのだから。

黄金色に輝く箱舟の一両目が、峠の道に落ちていた。

(こんなに近くにあったのか……)

リオはいつも烟(けぶ)らせている青灰色の瞳に驚きを隠せなかった。リオのわかりやすい表情の変化に、ニードは何となく不審な気持ちになった。

「変なヤツだなぁ……。……ま、いっか。オレは先にいってるぜ!」

考えてもわかるわけがないので、ニードは早々に諦めて先に進んでいった。ニードの姿が見えなくなると、リオはチャンスとばかりに天の箱舟に近づき、扉を開けてみた。

――開かなかった。

(そう簡単には還してはくれない、か……)

リオは天の箱舟の扉を名残惜しそうに見つめ、それからニードを追いかけて行った。誰かに見られているとは気づかずに――。

「何…アイツ? この天の箱舟が視えたワケ……?」

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