アリアドネの糸 | ナノ

▽ 呪幻師と族長の依頼

シャルマナの言うことを聞くのは癪でしかたないが、これも果実のため。リオはパオを出ようと扉に手をかけた。

「私も手伝う」
「いや、ひとりで十分だ」

リオはさっと扉を押して外に出た。ルウも急いで追いかけるが、高台からは降りない。レスターとステラも後に続く。

「そっちに行ったべー!」
「道をふさぐだー!」

パオの外では、住人達が必死に高台から魔物を遠ざけようとしていた。襲ってきた猿の魔物は、住人達をひらりとかわし、族長のいるパオを目指して動きまわっている。
魔物が、リオの降りてきたところに追いこまれた。まっすぐこちらに向かってくる。
リオは腰の短剣にそっと手をかけた。

「変なの。あいつ、走ってるだけじゃん。攻撃すればいいのに」

住民たちに邪魔をされても、魔物はただよけるだけで攻撃はしてこないことにステラは疑問を持ったようだ。狙いは族長ただ一人、ということか。

「そうだね……どうしてかな」

魔物がリオの目の前で止まった。見たことのない人間だからか、様子をうかがうようにリオを見ている。リオはそのまま、じっと魔物が動くのを待っていた。

「グギギ……」

しかし、魔物はくるりと方向を変え、柵を飛びこえて逃げてしまった。

「見ろ! 海から来た人が追っ払ってくれただ!」
「いんやあ、すっげぇなあ! まるでシャルマナ様みてえだ!」

あっけなく去っていった魔物に、リオはぼんやりとそれを見送るだけであった。


魔物を追い払えたので、リオは高台のパオに戻ってきた。途中、他の三人が外に出ていたことに気づいて思わずふっと微笑ってしまう。それを見たルウは、いたずらが見つかった子供のようにいち早くパオに引っこんだ。

「ふむ。 なかなかやりおるわ。 それに比べて我が息子は……」

一応、ラボルチュはリオ達のことを認めてくれたようだ。眉をひそめて、まだ隅っこで震えているナムジンをちらりと見た。

「ナムジン様。 もう安心じゃ。 ホホホ、こちらへ来なされ」

シャルマナに呼ばれて、ナムジンはラボルチュの前に戻ってきた。

「みっともないところを見せてしまって申しわけありません、父上」
「ナムジンよ。 お前はいずれ集落を導かねばならんのだ。 魔物一匹に怯えてどうする?」
「はい……刺し違える覚悟でしたが、いざとなると足が震えて……」

なんと脆い覚悟だろうか。というより、この若君は一体どんな人物なのかがリオにはまだわからない。自信たっぷりに魔物を退治してみせると言ったときと、自分にはできないと言ったときと、どちらが本当の彼なのだろう……

「……良いかナムジンよ。 もう一度、チャンスをやろう。 次こそ魔物をしとめるのだ。」
「そんな! 僕には無理です!」
「ええい、誰か! 縛ってでもこのバカ息子を魔物退治に連れていけ!!」

ラボルチュに呼ばれて、屈強な男が二人、ナムジンの両腕を抑えた。

「うわー!! やめろーー! 助けてくれ! シャルマナー!!」

非力な抵抗もむなしく、ナムジンはあっさりとパオの外へ連れだされてしまった。

「あいつが次の族長になるかと思うと、不安で不安でおちおち寝ることもできんよ」
「わらわに懐いてくれて、可愛いではありませぬか。 ホホホ、愛しい子じゃ」

シャルマナは、緑の瞳を細めて機嫌良さそうに言った。

「……見苦しいところを見せてしまった。 あれが俺の息子、ナムジンだ」

ラボルチュか改まって紹介するあたり、不甲斐ないとは言っていたがそれなりに認めてはいるようだ。しかし様子をみる限り、一番重要な点に一番問題がある、といったところか。

「あいつが今のまま族長になったら、集落は大変なことになる。オレは父親として、あいつに自信を持たせてやりたい。一体、どうしたものか……」
「ホホホ、そうじゃそうじゃ。 わらわはよいことを思いついたぞ」

シャルマナが、顔を隠した布の奥でにやりと笑った。

「おぬしら、確かこの草原に光る果実を探しにきたと言っておったな? ホホホ、魔物退治に協力いたせ。そして魔物のとどめをナムジン様に刺させるのじゃ。 おぬしらが役目を果たせば、果実探しに協力いたそう。無事に見つかるとよいがな」
「うむ。シャルマナがそう言うのなら、それでよいことにしよう」

ラボルチュはすぐに頷いた。こちらの都合は全く考えてくれないのは、前のシャルマナとの取り引きでわかっていたことだ。それに女神の果実が絡むと断れない。リオの瞳からすっと光がなくなった。

「 ナムジンは、集落の北の狩人のパオで身支度をさせている。 助けてやってくれ」

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