アリアドネの糸 | ナノ

▽ とかげ探し

「おい。ジーラというのはあんたか」

リオが、登城したときからからずっと走り回っていた女官のひとりの腕を掴んだ。女官は少し煩わしそうに振り向いた。

「ええ、私がジーラです。何かご用ですか? 私は今、トカゲのアノンちゃんを探すので忙しいんですけど」

ちなみにここはグビアナ城の一階。城内はトカゲのこと以外にもやることは山積みで、変わらず忙しさをみせていた。

「そのトカゲを探すのを手伝うから、状況を説明しろ」

リオがそう言うと、ジーラという女官はぱっと明るい顔をした。

「まあ! そうなんですか、ありがとうございます。実はまだそこまで広い範囲を探せていなくて。私はひき続きこのあたりを探しますから、他をお願いします。あの子、大きな音が苦手で、人のいないところが好きなんです。だから、そういうところで何か音を立てれば驚いて顔を出すかもしれません」

それでは、よろしくお願いします! とジーラはトカゲ探しを再開してしまった。一気に走り去る姿は、いつかの誰かを彷彿とさせた。

「……さて。手分けして探すか」

「えー!? アタシ、トカゲなんか触りたくない」

「私と一緒に行こう。それで良い?リオ」

ルウはウォルロ村で長く過ごしたこともあって、そういう類は割と平気だ。建物に入ってくる虫はなるべく外に逃がしてやるようなタイプである。リオは少しあごをひいて意を示した。

「俺は屋上を探す」

「じゃー僕は謁見の間と同じ階を探してみるねー」

「私達はこの階だね」

「見つかるに越したことはないが、一通り探したら城の入り口で落ち合おう。頼んだぞ」



◆   ◆   ◆




半刻ほどがすぎて、四人は再び城の入り口の近くに集まった。

「……いないねー」

「まず、人のいないところなんてなかったじゃん」

ステラがだるそうに言った。果たして幸か不幸か、城中がトカゲを探して回っているのだからすみずみまで人がいるのは当然である。

「あと探していないのは……」

「外、か?」

「外なら、トカゲの行くところは限られてくるねー」

「……行ってみるか」

リオ達は城の外に出た。

昼が近くなってきているので、太陽がぎらぎらと照りつける。四人は思わず、それぞれ手で光を遮った。

「トカゲは汗とかかけないから、暑いときは自分で涼しいところを見つけて休むの」

ルウがそう言って、城の東側にできている広い陰をまず確かめようと提案した。四人で連れだって城壁に向かう。

「あ、やだ……」

突然、女の人の声が聞こえてきた。先頭を歩いていたルウは肩をびくんと跳ねた。レスターがさっとステラの耳をふさぐ。

「人が来たら恥ずかしいわ……」

「大丈夫さ……今、城内はトカゲ探しで忙しいからね」

城の兵士と女官のようだ。城が忙しい隙を狙って逢い引きしているらしい。これは邪魔をしてはいけない。ルウはくるりと向きを変え、まだ状況を良くわかっていないリオの背中を押した。

「ちょっとぉ、何? 聞こえないんだけど」

「ちょっと人がいたから、反対側を探そうねー」

ステラがレスターの手を煩わしそうに掴む。少し気まずい空気を感じ――無論、ルウとレスターだけだが――ながら、四人は西側の城壁に向かった。

「……密会か」

リオが眉間に皺を寄せて言った。先ほどの二人が何をしていたか理解したようだ。ルウが苦笑した。

「お、おかげで探す手間が省けたね」

「ルウそれ何か違う」

四人は西側にできている影を覗いた。城内の忙しさやバザールの活気からは想像しがたい静けさだ。噴水もあってか、少し空気がひんやりしている。ひと気もないし、トカゲにとっては好条件だろう。

リオがおもむろに両手を持ちあげた。

――ぱんッ!!

乾いた音が響いた。トカゲが近くにいれば、顔を出すはずだ。リオ以外の三人は、あたりに目をこらした。

「……あ! いたーっ!」

城の隅に生えている茂みから、トカゲが顔を出した。首に、目も覚めるような鮮やかな色のリボンをつけている。ステラがいちはやく見つけ、レスターが茂みに向かって跳んだ。

トカゲは一目散に逃げ出し、影の中を走り回った。やがて人数が多いとわかると、日なたの方へ向きを変えた。

「逃がすか」

リオがすかさず短剣を投げた。

短剣はトカゲのリボンをかすめ、目の前の地面に突き刺さった。トカゲがびっくりして怯んだところを、ルウが両手で拾いあげた。

[金色のトカゲを捕まえた!]

「さ、ジーラさんのところに行こう」

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