▽ 人間、リオ
天使界から吹き飛ばされたリオは人間界に堕ち、翼と光輪を失くしてしまった。意識が無いままウォルロ村の滝に激突。さらに大怪我をしたところをリッカという少女に助けられた。二日後に目を覚ましたリオは驚きの回復力をみせ、さらに数日後にはすでに歩けるようになっていた。
ある日リオはリッカの家から滝の傍まで歩き、自分の名が刻まれている天使像の前で立ち止まった。そしてリオはおもむろに羽根を一枚取り出した。目が覚めたとき、リッカが渡してくれたものだった。
――それね、リオの手当てをしてたときに見つけたの。背中にくっついてた。……不思議だよね。その赤いところ、血じゃないみたいで。ずっと赤いままなの。
リオは羽根の軸をつまんでいた親指と人差し指をずらして、羽根をくるくると回転させた。手渡された羽根は確かに白い色のうち左半分に赤い色がついていて、鮮やかな赤色を保っていた。
「お! 誰かと思えば、この前の地震のどさくさで村に転がり込んだリオじゃねーか!!」
青年が二人、こちらに歩いて来た。リオはさっと羽根を服のひだにしまった。
「全く、リッカもなんでこんな得体の知れないヤツ家に置いてんだ?」
金髪をオールバックにしている青年が、やれやれといった様子で言った。
「ニードさんあれですよ、こいつの名前が天使と同じだから、それで気に入ってるんスよ」
「その名前も本当かどーだか」
そう言われてリオは僅かに表情を硬くした。
それを知ってか知らずか、ニードと呼ばれたオールバックの青年はリオに疑うような目を向けた。
「大方、売れない旅芸人が 天使の名を騙ってタダメシにありつこうって魂胆なんだろ!?」
「ニードさんはなぁ!! リッカがあんたばかり構うのが面白くなくていらっしゃるのさ!!」
要するにヤキモチである。
「よっ、余計なこと言うなよっ!!」
なんだこいつらは俺に何を言いに来たんだ、とリオの眉間に皺が寄っていく。
そんなタイミングで。
「ちょっと! 二人ともうちのリオに何の用?」
リッカが天使像の所に歩いて来た。
彼女はウォルロ村にある小さな宿屋を経営しているが、今日は客が来なかったのか、家に帰る途中だったようだ。天使像とリッカの家は近いので、気になったようだ。
「よ、よぉリッカ。何、ちょっとコイツに村のルールを教えていただけさ」
ニードはもう一人の青年を連れて、どこかに行ってしまった。
「ニードってばどうしてあんなに意地悪なのかしら。昔はもっと素直だったのに」
「……」
「リオ、怪我の方はすっかり良くなったみたいね。散歩もいいけど、あんまりムリしちゃダメよ。じゃあ私は、夕食の用意してるから」
「……手伝う」
「ありがとう。いつも悪いわね、まだ全快じゃないのに」
「別に。ほら、戻ろう」
「うん」
リッカの鈍さは相当だった。
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