▽ 石の番人戦
「…はあっ!!」
目の前の番人に、ルウは何の躊躇もなく槍を繰り出した。
その威力は虚しく番人の腕によって払われてしまったが、注意を向ける役割を担っているルウにはそんなことどうでも良かった。
――数刻前。
リオ達一行は身支度を整えてからルーラを使い、ビタリ山の頂上へ向かった。
町を巡回していた石の番人は、三人を見つけるとすぐに飛びかかって来た。
三人は咄嗟に番人からの攻撃の被害を最小にする為に散り散りになった。
始めにレスターが自分に注意を向けるように番人を思いっきり殴った。
すると番人の腕の付け根にヒビが入ったのだ。
リオはそれを見てはっと思い出す。
――あいつの、レスターの馬鹿力…すっかり忘れていた
初見の時は、ルウの疲労や精神ダメージに気を取られて、レスターのことなど頭から抜け落ちていたのだ。
リオは自分の注意力の無さに思わず眉間を押さえたくなった。
それは後で悩むとして、今はそれどころではない。
むしろルウの状態も良好な今に気づけたのは都合が良い。
すぐにリオは時間稼ぎにマヌーサをかけ、ルウとレスターを呼んだのだった。
◆ ◆ ◆――レスターに番人の両手両足を落として貰う。それで胴体かち割ってやれば、さすがにまた動き出すことはないだろう。リオに説明されたことを、頭の中で反芻する。
(リオはそう言ってたけど、そんな簡単に終わらせること出来るかな…?)
少し疑問は残るが、リオにも考えがあってのことなのだろう。今は、自分のできることを精一杯やるだけだ。
レスターが飛び上がり、番人の肩の上に踵(かかと)を落とした。
ガラッと音を立てて番人の腕が根元から崩れ、地面に落ちて割れた。
リオがレスターの所へ走る。
「…いけそうか?石の割には脆そうだが…」
「大丈夫ー。全然痛くないよー」
「よし…続けてくれ」
そう言ってリオが距離を取ろうとすると、ルウがそれを遮った。
「待って!なんか腕が動いてる!」
落ちた腕の破片がぶるぶると震えている。
三人が見ていると、破片が宙に浮かび上がって番人の方へ吸い寄せられ、バラバラだった筈の破片がくっついて元の腕になった。
「な…っ」
「あれれー?リオ君見当外れしちゃったねー」
そう言った後、レスターがきゅっと顔をしかめた。
ぬしさまを、神聖な様で胡散臭い、と言った時の顔だ。
腕が元通りになった番人は、リオ達の驚きなど気にせず容赦なく襲ってくる。
リオ達は距離を取るために散り散りになった。作戦は練り直しだ。
怪我を少なくする為にそれぞれが対応をし、何とか隙を見つけようと目を凝らす。
「うーん、うーん」
途中、レスターが唸り始めた。
それに気づいたリオが、ルウに目配せをした。
ルウは頷いてレスターの所へ走る。
「レスター、どうしたの?」
「あのねー、なんか、ぬしさまと同じにおいがした気がするんだー」
「それっていつ?今はする?」
レスターはちょっと考えてから、
「今は凄く弱いなー。腕がくっついた時が一番強かったかもー。なんかこうー、漏れてる感じー?」
と言って、番人を一人で相手しているリオの手助けをしに行ってしまった。
「ぬしさまと同じにおいが…、漏れてる感じ?」
今度はルウが唸り始める。
(ぬしさまのにおいって、女神の果実のことだよね…?においが強かった時に腕が戻ったんだから、その力が果実の力なのかな…)
ルウが考えていると、リオがやってきた。
「ルウ、何かわかったのか?」
「ううん、わからない。えーっと…リオは氷の呪文が使えて、レスターは力が強くて…あ、腕がくっついたってことは、引っ張られたってことで合ってるのかな…」
脳内の容量を超えそうなのか、ルウは口に出して状況を整理し始めた。
リオはルウがぶつぶつと言っていることと、さっき戦いながらレスターに教えて貰ったことを拾い集める。
(もし、レスターの言っていたにおいが女神の果実のことで、落ちた腕がルウの言う通り引っ張られたのだとしたら…脆かったのも辻褄が合う)
そして、リオがはっ、と閃(ひらめ)いた。すぐルウに耳打ちをする。
ルウが頷いて番人に向かった後、リオはレスターに指示を出した。
「レスター!ルウと一緒に番人の注意を引け!その位置から動かすな!」
リオは少し番人から離れ、弓を引き絞った。
ルウはリオに言われた通り、常にレスターと立ち位置が正反対になるように気遣った。
レスターは翼を何度も落とし、大きな移動を防ぐ。
リオは目を細めて狙いを定めている。
急に両目の瞳孔をカッと開き、リオは矢を放った。
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