▽ バーと弓とマスターと
レスターの意味ありげな微笑みに何となく居心地の悪さを感じたリオは、宿屋の部屋を出て酒場の方に行った。
夜もなかなか遅く、カウンターやテーブルには客が数える程。大理石の床の冷たさと静かな空気が何となく心地よかった。
「お客さん、何か飲むかい」
「…何かすっきりするものを」
バーのマスターはおもむろに飲み物を作り始める。リオはカウンターに座り、その手をぼんやりと見つめていた。
最中、ぱたぱたと聞き慣れた足音が近付くのが聞こえて、リオはそちらを向いた。
マスターは手を止めない。
「おかえり、ルウ」
リオが少し大きく声をかけると、階段を降りてきたルウがこちらを向いた。
「…あれ、リオだ。ただいま」
ルウがカウンターまで走ってきた。弓を抱えている。
「それは?」
「ロングボウだよ。リオ、剣から離れてみたいって言ってたから、どうかなって」
ルウがロングボウ、と言ったものをリオに手渡す。
軽すぎず、しっくりくる重さだった。
リオが今まで回ったどの武器屋にも売っていなかった弓を、どうしてルウが持っているのだろうか。
「錬金か」
「うん。リオ、ショートボウじゃ軽いって言ってたでしょ?私の使ってた槍と錬金したら上手くいくってカマエルが教えてくれたから…」
どうかな?とリオの手元を覗き込む。
リオが興味ありげに弓を観察するのを見て、ルウの顔が明るくなった。
「…貰ってくれる?」
「ああ、勿論だ。ありがとう」
――これなら、いけるかもしれない
「…これで、転職の準備が整ったな。石の番人の攻略も近くなりそうだ」
「本当!?」
「あぁ。きっと大丈夫だ」
「じゃあ、はやく部屋に戻って準備しなくちゃ!今まで頑張ったことがやっと役に立つんだね!!」
ルウが少し興奮気味に言った。
そうだな、とリオも若干わくわくしたように腰を浮かせる。
「最近の若いもんは、気ばかりがはやるね」
急に、マスターが喋りだした。
リオとルウはきょとんとして、何となく椅子に座り直した。
「何をしてるのか知らないが、若いうちは失敗したって良いんだ。焦らず、落ち着かないとな」
そう言って二人の前に飲み物を置いた。
コップに注がれていたのは、透明な液体だった。
「これはオレの奢りだ。あんたら二人が成功するように、ってな」
初めてバーで飲んだ未知の飲み物は、すっきりとして落ち着いた味がした。
prev /
next