▽ 新しい可能性
リオ達一行にちょっと一波乱あった日から四日ほど過ぎた頃、ダーマ神殿の周辺の草原は魔物が激減しつつあった。
それというのも、ビタリ山の頂上に君臨する石の番人に対抗する力を手に入れるべく、リオが鬼のように魔物退治をしているからである。
「…全く、こんなにボコボコ倒しちゃって。さしずめ草原の、いや地獄の掃除屋、ってトコロね」
サンディが呆れたように呟いた。
[リオは「地獄の掃除屋」の称号を手に入れた!]
「…でもリオ、焦ってる?」
ルウに指摘され、リオの肩が僅かに揺れた。
ルウにはわからなかったが、レスターにはちゃんと見えてしまっていた。
「少し、休憩しよっかー」
「…俺はまだ良い。二人は先に休め」
リオは振り向きもせずに言った。
「だめ!バギクロス覚えた、剣だって極めた。もう十分だよ」
「………わかった」
あの一件から、リオがルウの押しに弱くなったかなー?とレスターは思った。
ルウも自分も、リオのことを大切に思っていることを感じ取ってくれたのかもしれない。
そう考えるとひとりでに笑みがこぼれてくるあたり、自分はちゃんと仲間を持っていると実感できて、凄く幸せだなー、とまた笑みが深まる。
レスターが一人でにこにこしていると――実際、いつも笑顔は絶やさないのだが――リオがくすり、と微笑った。
「僕の顔おかしいー?」
「いや…仲間なんだな、と思ってな」
「ふふ、変なリオ」
雨降って地固まる、とは、人間も上手いこと考えたものだとリオ独り言ちた。
◆ ◆ ◆レスターの勧め通りダーマ神殿の宿に引き上げたのは良いが、リオはすることもなく暇を持て余していた。
因みに、ダーマ神殿の宿屋はひとつの大部屋に沢山置かれたベッドのみを貸し出すタイプで、食事は別のスペースで摂ることができる。
パーティ内にルウがいることも考慮して、部屋の角に並んだベッドを借りた後は個人で別行動だ。
「リオ君ご飯食べたのー?」
「…まぁ」
「ルウちゃんはー?」
「…知らん」
「どこ行っちゃったんだろー…?」
しっかり見えているのかわからない細い目で、レスターがきょろきょろするのは何となくおかしいな、とリオは口元を緩めた。
「やっぱり僕の顔おかしいー?」
「いや、そうじゃないんだ」
そう言って笑った後、リオはまたいつもの表情に戻る。
リオの言いたいことがわかったのか、レスターも真面目な顔になってリオの向かいのベッドに座った。
「転職しようと思う」
「…何に?」
「わからない。ただ、剣を使わない職業、とは考えている」
そのとき、レスターの口角が吊り上がった。
「それ、ルウちゃんにも言ったでしょー?」
「…どうしてわかったんだ」
「ちょっとね。少し経ったらきっと、答えが見つかるよー」
だからおとなしく待ってようねー。
と、何だかあまり好きではない笑顔でそう言ったレスターに、リオは怪訝な顔をするしかなかった。
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