アリアドネの糸 | ナノ

▽ 見ないふりをした壁

「どういうことだ…?」

ここに来てはいけない。確かにスライムはそう行った。

未だに地響きはおさまっていない。スライムが怖がっているということは、魔物か何かだろうか。

リオはすぐに外に出た。

「……何、だ…!?」

リオの目の前に、さっきまではなかった大きな石像が立ちはだかっていた。

怪鳥のような姿をした石像は、リオに気づくとぎょろり、と目をこちらに向けた。

「誰だ…」

低い声で、石像が喋った。

「わー、喋る石像なんて僕初めて見たよー」

リオの隣でレスターが感心したように言った。そんな呑気なことを言ってる場合ではないのだが。

「ラボオ…ではない。ならば…」

どうやらこの怪物は、ラボオを捜しているようだ。しかし今目の前にいるのはリオとレスター、そしてルウだけだ。

「我は、番人。この地を荒らすお前達を、許しはせぬ…!」

「…この地を荒らすって、私達何もしてないよ!?」

「ばっ…!ルウ、前に出るな!!」

ルウが話をしようと前にいたリオとレスターの間をすり抜けていった。

ぶんッ!

番人、と名乗った石像は、問答無用と言わんばかりにルウに向かって腕を振り下ろした。

「きゃっ!!」

リオが咄嗟にルウの腕を引き、その場から離れさせる。

バキィッ!!と音を立てて番人の腕が地面にめり込んだ。それを見たルウの顔が、真っ青になった。

「レスター!!」

リオが言いたいことがわかったのか、レスターは頷いて番人の後ろに回った。

目標が二手に別れたので、番人は動いた方のレスターに注意を向けた。

リオはそのことを確認するとすぐにルウを立ち上がらせようとした。しかしルウの顔は青いまま、まばたきもしていない。

「…戦えるか?」

リオは膝をついてルウの肩に触れた。震えている。

「だ、大丈夫…」

ルウはふらふらと立ち上がって槍を構える。その手をリオが押さえた。

「相手は石だ。せっかくの槍に傷がつく」

一瞬、ルウがホーリーランスの白金色に輝く先端を見やった。

「でも!」

それでも戦う意思を見せるルウに、リオが大きく息を吐いた。

「…それに顔も青い、身体が震えている。そんな状態で本当に戦えるのか?」

確かに今のルウは立っているのがやっと、という様子だ。だがルウはそれを認めたくないらしい。

「リオ君ー、後ろー!!」

番人の相手をして逃げ回っていたレスターが叫んだ。リオはすぐに剣を抜いて攻撃を防ぐ。

ガ…ッ、キィイ!!

番人の攻撃を受け止めた衝撃で、踏ん張っていたリオの足元がずれた。

「っち、何て馬鹿力だ…」

相手が石なだけに一撃が重い。

今リオの使っている剣は、そこらの合金とは訳が違う言わずと知れた覇者の剣で、強度では勝っている。だが職業上力では競り負けてしまう。

「あ…、あ…」

ルウはすっかり怯んでしまった。

「レスター、今の俺達じゃ、あいつに勝てない!!ルーラで逃げる!!」

「?…わかったー」

リオは力を振り絞って番人の攻撃を弾くと、ルウを連れてレスターの所まで走った。

「ダーマ神殿に、“ルーラ”!!」

[リオはルーラを唱えた!]

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