アリアドネの糸 | ナノ

▽ 色のない町

所変わって、ビタリ山の山道。

道と言える道もなく、レスターの野性的な勘によってリオ達三人は歩みを進めていた。

蔦を登ったり、山肌の細い足場をつたって行ったりと、頭脳ではなく体力の要る場所だった。

「はぁ…はぁ…」

「大丈夫か、ルウ」

休みなく登ってきた為、ルウに疲れが見え始めた。気遣って声をかけるリオの額にも、うっすらと汗が浮かんでいる。

先に登っていたレスターが戻ってきて、上の状態をリオに説明した。ルウの耳には全然入っていない。それどころではないのだろう。

「もう少し行ったら、頂上だそうだ。頑張れ」

リオがルウに手を差し出した。



◆   ◆   ◆




レスターの偵察通りに頂上に着いた三人は、言葉が出なかった。

それもその筈、ビタリ山の山頂には町が存在していたのだから。

「これ…どういうこと?」

「よく見たらこれー、ぜーんぶ石でできてるよー」

「…凄いな」

そこは建物から植物、人間までもが精巧につくられた石の町だった。

中央に位置する大きな木に、どこか見覚えがあるような気がした。

「あれ、この家は中に入れるんだ」

町の中を散策していると、ルウがひとつだけ内部に入れる建物を見つけた。

他の建物は何故かしっかりと扉が彫られており、内部がある物といえば井戸くらいだったのだ。

三人はおそるおそる建物に入ってみた。

中は普通の家庭で見られるように、石でできたベッド、テーブル、キッチン等が鎮座している。

キッチンでは、若い男女の石像が仲良く食事の準備をしていた。

二人の表情は、何処か寂しげに見える…。

リオ達三人の他は誰もいない筈のこの空間で、ぷるん、と音がした。

「あれー?こんな所にスライム君」

スライムがベッドの陰から姿を現し、近づいてきた。

レスターはスライムの目の前にしゃがみ込み、ちょいっとつつく。

「プルプル…君達誰?どうしてここに来たの?」

スライムはちょっと嫌そうな顔をして言った。

「僕たちはねー、ラボオさんって人を捜しに来たんだー」

レスターが答えると、スライムはプルプルと揺れながら説明してくれた。

「ラボオじいさんはね、ずーっとここで、ひとりで彫刻を彫ってたんだ。何年も、何十年もかけてこの町を完成させて、じいさんは死んじゃった」

「え!?亡くなったの!?」

ぷるん、とスライムは頷いて、続きを話した。

「ラボオじいさんはね、最期にカラコタで買ったとてもキレイな果実を食べたんだ。たった一度の贅沢さ」

間違いなく、女神の果実だろう。死んだ者からどうやって果実を取り返せば良いのか。

リオは頭が痛くなった。

「じいさんその時言ってた…。…この町は自分のすべて…だから、どうやったらいつまでも残せるだろうかって…。でも、それから…」

…ズシン!!

スライムの話している途中、突然地面が揺れた。

「きっ来た!!あれから、なんだか怖い音が外から聞こえてくるんだ!!」

スライムはプルプルッとはねて家の奥に逃げ込んだ。

「プルプル…プルプル…、君達はここに来ちゃいけなかったんだよ…!」

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