今日は星の降る夜よ。
 航海に必要な気象学、天文学に長けたナミが夕飯時に談笑の中でそう口にしていたことを、ゾロは実際にそれを目の当たりにしてから思い出した。
 見張り台の上、新月の夜。
流れる雲の影も見当たらない真っ黒なキャンバスに、小雨よりもっと忙しなく、閃光の軌跡が走っては消える。
 綺麗だと思った。
そのくらいの感性はゾロにだってある。
無意識の呼吸が闇に送り出す白い吐息さえ邪魔だと思うくらい、今日の夜は幻想的だ。静かな船上ではまるで星の降る音が聞こえてくるようで、けれどゾロが実際にその耳で拾った音は、そろそろとここへ登ってくる控え目な足音だった。

「…よう」

 ちらりと背後に視線をはべらせれば、芸術的な眉毛が見える。
おう、とだけ返事をすると、ゾロと同じように毛布を纏ったサンジが隣に腰を下ろした。

「…ナミさんが、今夜は流星が見えるって言ってたからよ。ほんとはおめェみてェな筋肉バカじゃなくて素敵なレディと肩を並べてェもんだけど」

 聞いてもいないのに屁理屈じみた言い訳を述べるサンジをゾロが盗み見ると、その鼻はまだ冷えた外気に慣れていないようでほんのりと赤らんでいた。ひっきりなしの星明かりのおかげで目視出来るそれがなんだか可笑しい。サンジは肌が白いから余計にそれが目立つ。普段から眩しい金髪は鈍い色で天空の光を反射している。

「じゃあわざわざ来なきゃいいだろ」

 しれっと答えてやればサンジは一瞬むっとした表情を見せたものの、次にはにやりと口角を上げて、マリモ君と続けた。

「んなこと言うっつーことは、これ要らねェんだな?」

「!」

 自分に巻き付かせるようにしていた毛布をめくったサンジが取り出してみせたのは酒瓶ふたつ。
 ん? と再度問いかけてくる大層意地の悪い顔に、ゾロはやられたと眉間の皺を濃くした。

「気が利くじゃねェかアホのくせに。寄越せ」

「アホは余計だクソ剣士。くださいって言ってみろ」

「なっ…! てめェは…!」

 ひひひと笑う顔が実に楽しそうなので、ゾロは肩の力を抜いて大きく溜め息をした。
 蹴りをぶちかましてくる時とも、料理を振る舞う時とも、美女を目に留めて鼻息荒くする時とも、一味全員で宴をする時とも違う。
たぶん、ゾロしか見れない顔で、そしてそれはとても、彼の好きな顔だった。
ゾロは未だにやにやと口元を歪めるサンジの腕を毛布の上から掴み、引き寄せる。
柔らかく触れた唇は冷たく、ゾロを拒まない。

「…よこせよ」

「…なにを?」

 ほんの少しだけ唇を離して、内緒話をする時みたいに小さな声でゾロが呟けば、酒瓶が転がる音がする。またからかうみたいに笑いながら、サンジが首に腕を回してきた。
それが合図みたいにもう一度キスをして、ゾロはサンジの背を抱き寄せる。
触れては離れてを繰り返して、その度に二人の距離は近づいてく。
触れる舌の熱さに互いが酔う頃には、流星は一際長く尾を引いて、荘厳な夜を演出するのだろう。










つまみはおまえだな、とゾロに言わせようとしてやめた。マリモはそんなこと言わないよね!
オリオン座流星群にあやかりました。



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