夕飯の仕込みを終えて甲板に出たら、昼寝の延長で夕寝に突入したマリモが見えた。
 どう考えてもお世辞にも趣味が良いとはいえない腹巻きの上には、チョッパーが頭を乗せて寝ている。
 他のクルーは見当たらない静かな午後。こいつらと同様に、寄せては返す心地好い波のリズムに睡魔を誘われ眠っているのかもしれない。聞こえるのは波音とカモメの鳴く声。見えるのは一面に広大な海原。つまり暇を持て余した時に遊びに行くのは夢ん中ってことだ。無駄でも暢気でもない。おれはそんな風に自由に時間を使うことは悪くないと思うタチだ。
 タバコの紫煙はあっという間に潮風に消される。おれはなんとはなしに二人の傍へ近づいてみることにする。しょうがねェんだ。おれだって仕込みが終わっちまえば、他にすることねェんだもんよ。

「…寝てる時ぐらいはさすがに可愛げあんだよなァ」

 普段はもうそれ刻まれ過ぎだろってくらい濃い眉間の皺が、今はほとんどない。マリモの腹を枕にしてるチョッパーも、すげェ気持ち良さそうに寝てる。
なんつーか、海賊にあるまじき光景っつーか…見てるこっちまで寝ちまいたくなるような気分にさせられて、おれはその場にしゃがみこんだ。
すると、ううん、と小さく呻いたチョッパーがうっすら目を開いた。
寝ぼけ眼の定まらない視点でおれの姿をとらえて、二度、小さく目元を擦る。

「お、悪いなチョッパー。起こしちまったか」

「食いもんの匂いがしたから。…もう夕飯か?」

 ふるふると首を振ったチョッパーにしまったと思った。
こいつはおれらより断然鼻が良いから、仕込みを終えたおれに、おれ自身すら気づかねェような微かな匂いが付いてるのを察知しちまったんだな。せっかく良く寝てたのに悪いことした。

「いや、まだ夕飯には早ェよ。もう少し寝ててもいいんだぜ。起こしてやるから」

 ぽんっと帽子の上から頭を叩いてやると、チョッパーはふにゃりと笑って再びうとうとと瞼を落とし始める。

「ありがとサンジ。…ゾロのお腹あったかくて、おれ、まだ…」

 言いかけたその次は小さな寝息に変わってしまった。
おれはくつくつと笑いをこらえる。

「腹っつーより、そのハラマキに安眠効果があるんだと思うぜ、チョッパー」

 おやすみと呟いて立ち上がる。本当の安眠効果がマリモの体温にあることを知ってしまっているおれは、こうして無防備に寄り添えるおまえがほんの少しだけ羨ましい。…ほんの少しだけな。
今度口に出して言ってみようか。どんな顔すんのか楽しみだ。
おれはまだ、もっとおまえのことが知りたくて仕方ないよ、ゾロ。








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