太陽が水平線に沈んで間もなく、船上から見渡せる一望は実に地球の躍動を感じさせる。
残照の放つオレンジと、星々の輝きを織り交ぜた藍色が共存する空。
その下で一流コックの晩餐を待つ麦わら海賊団は、これまた生命の息吹に従順に、その腹をぐうぐういわせていた。
キッチンからは食欲をそそる良い匂いが溢れだして、サンジがおたまを鳴らすのを今か今かと待ちわびている。海軍の追撃もなければ、戦いを挑んでくる猛者もいない。平穏無事な航海での楽しみといったら、もっぱら食事がそのトップに君臨するのだ。
船員の誰しもがそうして空腹を持て余す中、キッチンにはその欲望に先走った男が一人。
サンジはエプロンを巻いた腰に添えられた手を思いきりつまみ上げた。

「味見してやるっつーから入れてやったんだぞ」

「嘘は言ってねぇだろ。腹減ってんだ。もっと食わせろ」

「味見の意味が違ぇっつーの。むしろこれつまみ食いだろ」

はああ、と溜め息をついたサンジの口が、大層強引に塞がれる。タバコはとうに奪われた。もう10分はこうして、本気なんだかそうじゃないんだかいまいち解せない子供みたいなキスを仕掛けてくるゾロを、サンジはうっすらと開いた瞳で睨んでやる。
味見を理由にして調理中のキッチンに潜入し、本来の目的である盗み食いを謀ろうとする輩が多いため、本来ならば完成した料理を皿に盛るまでは扉を閉めているところだ。
だがしかし例外がただ一人。
例外は特別とイコールではないと言い聞かせながらも、ゾロが何を味見しに来るか、空腹の本当の意味は何かを知ってしまっている上で中に招いてしまうのは、これはつまり随分と自分もほだされてしまっているからだと、サンジは頭を抱えたくなる。

「腹空かしてんのはおめェだけじゃねーんだよ。おれはあいつら皆に食わしてやんねーと…」

「じゃあ今晩な」

「…気が向いたらな」

食わせろよ、と不敵に笑ってくれる剣士様を左足で押し退けて、サンジは味噌汁をかき混ぜた。
食うか食われるかの本当の晩餐は、今夜未明、満天の星空になってからだろう。







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