抵抗はしたさと、サンジは目先に広がる芝生を指先で弄りながら弁解を唱えた。声には出してない。こんな暗がりでこんな体勢でいるところを、他の人間の前で見せているわけではない。差詰め自分に対する言い訳といったところだ。相手はとびきり品の良い美人でもないんだから、わざわざ口説いて己をオススメしたいわけじゃない。
 もそもそと首筋を動く髪が擽ったい。そこを舌先で舐められた感触の次には痛みが走った。また噛みつかれたんだろう。肉は裂けないがそれなりに痛い。短すぎて摘まむに摘まめない若草色の髪を出来る限り指で挟んで引っ張った。
 結局力任せにシャツをひん剥かれて、サンジは船尾にてご立腹の鬼さんに馳走を振る舞う羽目になってしまった。後方の無邪気な喧騒とはうって変わって、この殺気すら混じる食い気ときたら。風呂に入って洗ったあとでもないし、食用には不適だというのに、腰と背中を抱いてくる腕は本気になっている。

「…っ、ばかが…噛むんじゃねェよ」

「痛ェって? ヤワだな、おまえ」

「ンっ…、…っ」

 首筋を辿って、今度は肩先をがぶりとやられた。そこに熱が集まっていく。きつく噛みつかれたあとで外気に触れたら、余計にじんじんと鈍痛が響いた。そこをまた舐めてくるから痛さが増す。サンジは思わずひくりと喉を詰まらせて、目の前の太い首筋に額を寄せた。ゾロはそうして彼が俯くことで露になった鎖骨を親指で撫でてから、顎を掬って唇を塞ぐ。キスは血の味がほのかに混じっていて、ああやっぱり噛まれた時に傷になったんだとサンジは理解した。だけどああして甘噛みどころでなく歯を立ててきた今さっきと違って、優しいキスとは縁遠くとも、まるで好物を味わうかのように何度も何度も唇を吸われる。これがちょっと気持ちよかったりするので、知らずサンジの瞼は閉じていく。それから髪に触れていた手を首に回した。
 それに呼応するようにゾロの両手は背中を辿ってサンジの腰にたどり着く。

「は…っ…ん、…ン!」

「…ケツあげろ。下ろせねェ」

 スラックスの上から尻をなぞってゾロが催促する。すっかり汗ばんだ喉仏が飢えたように上下するのを見るのはなかなかに良い気分だ。サンジは手放しそうな理性の中でひとつ笑って、ほんの少し腰を上げる。そうすれば乱暴な手つきで下着ごとずり下ろされた。中途半端に足にまとわりついているのが不快で、荒い息を整えながら、サンジは自らでそれを脱ぐ。
 もう殆ど身にまとっていないようなシャツの袖から締まった足がすらりと伸びて、ゾロは無意識に喉を鳴らした。まるで獣が狩りの準備を万端にしているかのようで、暗がりでもその目の色が変わったのがわかる。

「…ひでー顔しやがる。そんなに腹空かせちまったか? 恵方巻は腹の足しにゃならなかったかい?」

「これは別腹だ。あんまり喋ると舌噛むぞ」

「いっ…あ、っあ!」

 喉元に鼻筋を寄せてくると同時にいきなり中心を掴まれたのでサンジの腰が跳ねる。決して上等な手つきではないのに、指で包まれて擦られると思わず声がもれるくらいには気持ちがよかった。時折くるりと指先で先端を撫でられる。初めての時にはただひたすらにしごくだけだった単調な愛撫から一変、身体を繋げた分だけ本能で学んでくるからタチが悪い。おまけに反対の手が尻の割れ目に沿って入り口をつついてくる。すっかり垂らしていた先走りの潤いを借りて、つぷりと遠慮なく太い指が侵入してきた。

「ア! んっ、はァ…っ」

「…そう締めんな。おめェも腹減ってんのか?」

「ちっ、が…ア、うあっ」

 メリーが立てる細波は、下半身から発せられる卑猥な音を掻き消してくれない。前も、後ろもいいように濡らされて、サンジはより強くゾロの首を抱いた。なかで暴れる指が悪戯に気持ちのいいところを引っ掻いてくる。腰が上擦るたびに指が増やされて、尾てい骨から上に向かって紛れもない快感が駆け抜けた。何かにすがり付いてなきゃ、すぐにでも意識が飛びそうだ。

「…こんなんで満たされた顔してんなよ」

「! …っ、つ!」

 早急に己のチャックを下ろしたゾロが、改めてサンジの腰を抱き寄せる。尻の間に擦り付けられたモノが相変わらず熱いので反射的に腰を引くも、引いたつもりが実際にはそれほど逃れられたわけではなかったようだ。腰にがっしりと腕が回されている。
 それから了承も得ずに先端が入ってくる。いくら解されたとはいえ、ここで欲望を受け止めることには少しも慣れない。引いては押してを繰り返しながら奥へ奥へと進んでくる大きいのに、サンジはゾロの肩に頬を押し付けて耐えた。それを黙って許しながら、ゾロは彼のなかの狭さに顔をしかめつつ、汗をかいた金髪に鼻を埋めて荒く息を吐き出す。その息の熱さにもぞくりとサンジの背が震えて、情欲に濡れた溜め息をこぼした。しがみつく手に力を込めてしまう。ようやく全て挿入されたと思ったら休む間もなく律動が繰り返されて、サンジの勃ち上がった前がゾロの腹に擦れた。

「あ、っ、あ! んっ」

「…っ」

 身体の深いところで感じる熱がどんどん高まっていくのがわかる。これだけはしたなく服を脱ぎ散らかしているというのに、ちっとも涼しくない。何がいやなのかわからないが、無意識にゆるゆると首を振ってしまう。その掠れた鳴き声を追いかけて、ゾロが再び唇を塞いだ。すぐに触れた舌と舌が、溶けるように熱い。ふあっ、と鼻から抜ける声と共に、サンジのなかは波打つようにゾロを締め付けた。キスを交わしていなければこちらも声を上げてしまいそうになるほどの快感に、一際強く腰を突き入れる。

「もっ…、や…っ…ああ!」

 なかで広がる迸りを受け止めながら、サンジも一気に精を吐き出した。脈動は激しく、腰を押さえつけられたまま、ゾロのそれが終わるまで耐えるしかなかった。荒い呼吸のまま、離れていかない身体が重い。サンジもまた落ち着かない息をしながら、汗をかいたゾロの耳を引っ張って顔を上げさせた。すっかり満腹の表情を称えて、彼はこちらを素直に見つめてくる。

「…美味かったか? ごちそうさまぐらい言ったらどうだ?」

「……、まァ、不味くはなかった」

 ぼそりと呟いた声に毒気はない。サンジはうっすら笑ってやって、もう一度ゾロの首に腕を回した。そしたら背中を支えてくれる両手があったので、鬼の機嫌がすっかり直ったことを悟ったのである。









ゴメンネ、こりゃ節分関係なかったね!

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