「パンツがねェ」 仕込みを終えた。洗い物を終えた。 一仕事終えた後の格別にウマイ煙草を一本味わって、そろそろ日付も変わる夜更けに一人、サンジはぽつりと呟いた。 男部屋には床に大の字で四肢を放り出す船長と、ハンモックに揺られるチョッパーとゾロ。 三人とも高らかないびきをかいて熟睡を堪能しているようなので、サンジの呟きに反応した者は誰もいない。 自分も彼らと同じように、今夜見張り番のウソップに船の前途を託して眠ろうにも、替えの下着がないので困った。シャワーを浴びずに寝るだなんて、そんな不粋な真似は許せない。肉を食わせろと駄々を捏ねた船長のリクエストで、今日の晩御飯はカツ丼だった。おかげで余計に全身油臭い。この状態で風呂に入らないで一晩を過ごすくらいならウソップと交代して潮風を浴びまくったほうがマシだろう。 とりあえず各々の衣装ケースに振り分ける前の、とりこんだ洗濯物を臨時的に収納しているカゴを漁る。 洗濯をしているのはサンジだ。畳んでいるのもサンジだ。それなのに今このカゴの中ときたら、整理整頓のせの字も当てはまらないほど男連中の衣服が散乱している。しっちゃかめっちゃかに引っ張り出す輩が多いのがその理由だと知っているけれど、どれだけこの有り様に青筋を立てたところで、乾いたばかりの洗濯物の魅力には勝てない。まるで畳んでくれ! とでも訴えられているかのような気がしてしまうのは、サンジの完璧主義と綺麗好きが災いしている。 おかしいなァと首を捻るサンジは、念のため己の衣服の保管場所も改めて確認する。ぐちゃぐちゃにされないように分けて置いているのは正解だと思いながら、そこにもサンジが今本当に必要としているものの姿はない。 でも、確かに今朝洗濯したのだ。洗って畳んだ本人が覚えているのだから間違いない。 一体どこにと思い巡らせる過程で、もしや誰かが違えて穿いているのではと、一つの疑念が浮かび上がる。仮にそうだとして、容疑者は3人だ。ハンモックですやすや眠るチョッパーは頭数に入らない。彼の愛用パンツは子供用なので、そもそもサイズからして該当しないだろう。 サンジは一際大きないびきを奏でるルフィに近づく。ちょいとズボンをずらして真相を確認しようとしたが、タイミングよく本人が既に丸出しにしていた腹部を大胆に掻いた。その拍子にほんの少しズボンが下がって、いつものルフィの下着が垣間見える。 「…腹出して寝てんじゃねぇクソゴム。下痢んなっても知らねーぞ」 違った。容疑者の中で最も疑わしかった船長はきちんと自分の下着を身に付けていた。というよりこいつは風呂に入ったのかどうかも分かりかねる。食い気の次にやってくる眠気を素直に頂いて、早いうちからこうして横たわっているのかもしれない。 まあ何にせよ、彼はシロだったということ。恐らく無意識に剥いでしまったのだろうタオルケットを丸出しの腹に放ってやって、サンジは次にゾロへと足を向ける。 ここで見つからなければあとはウソップを問い詰めるしかないが、臆病でいるようで実は冷静に物を考えられる彼が犯人である可能性は極めて少ないとも思っている。おっちょこちょいより用心深いといった形容詞のほうが彼にとっては相応しい。そんな男が己の下着と他人の下着を間違えるだろうか。となると実質、もう容疑者は絞られたようなものだ。ついうっかりというレベルではなく、考えれば考えるほど、パンツ行方不明事件はこの目の前の男の無関心さが引き起こしたかのように思えてならない。 眠る時まで腹巻き装備のゾロに対して、お前はおっさんかとサンジは心中で呟いてみる。 さて、どうしたものか。 ウエストラインは緑が巻き付いているせいで、さっきルフィに実践しようとしたようなズボンをずり下げての確認は出来そうにない。面倒だから腹に一発蹴りを食らわせて、意識を無理やり睡眠から引き上げるという作戦も候補にはあるけれど、実はちょっぴり、パンツを探すという大義名分に則って、無防備なゾロにちょっかいを出せることにわくわくしている自分がいる。 サンジは眠るゾロの顔を覗きこみながら、そうっと股間のファスナーに手を伸ばした。いびきの三重奏のおかげで社会の窓を開く音は描き消されている。慎重にチャック全開を完遂したところで股間に視線を移せば、隙間から現れたのはこれまたいつもゾロが愛用している、黒のボクサーパンツだった。 (またハズレ) となると本当にウソップだろうか? この男が犯人だったなら、積年の恨みも兼ねて全クルーの前で変態呼ばわりしてやれたというのに。 的外れのつまらない結果に苛立って、それでも一応、ないようでうっすらと存在するサンジの良心がファスナーを引き上げてやろうとしたその時、苛立ちのあまり若干乱暴になってしまい、うっかりゾロの息子に柔く指先が触れてしまった。そしてその刹那だ。ひくりと体を揺らしたゾロが、小さいけれど確かに吐息をこぼしたのだ。 「……」 ここでサンジの悪戯心に火がついた。予想外の反応に、妙に胸が高鳴ってくる。 まだ柔らかな股間の形を確かめるように、触れるか触れないかの絶妙なタッチで下着の上から撫で擦ってみた。言っておくが指先の繊細さに於いては、いちいちデリカシーのないゾロよりも遥かにテクニックがあると思っている。 上下左右をランダムに行き来して、その合間に下で膨れた二つの袋も擽ってやる。そうすればゆっくりと繰り返すサンジの愛撫より速く、隙間から触れられた股間は熱を帯びて、無意識にその腰を跳ねさせる。 「……は…っ」 吐息まで熱くなっているようだ。ゾロの額にうっすらと汗が浮かぶ。半分頭をもたげるまで成長した股間は裏筋を弄りやすく、サンジはそこを重点的に撫で上げた。 「…あ、……う」 いい加減目を醒ますだろうかと思いつつ、それでもサンジの指は止まらない。 悪戯心についた火は、どうやらサンジ自身にも飛び火してしまったらしい。 だってこんなに無防備なゾロをサンジは知らない。指先一つで身体を震わせている様に異常なくらい興奮する。自分を追い立てる時のなんだか必死な双眼も嫌いではないが、こうして自分の手で言い様にされているという事実が新鮮且つ妙に卑猥だ。 「…ゾロ」 理性が傾き始めている。 サンジは溜め息を吐いて、眉間に皺を寄せて堪えるような表情のゾロの頬にぺろりと舌で触れてみる。 それだけでまた熱い吐息をこぼしてくれるものだから、サンジは余計に煩悩に支配され、もうだいぶ硬さが増した股間の先端をぐりぐりと刺激した。 「っ!……っあ…」 じわりと下着越しに湿った感触がする。 サンジは頭を下ろして、布を通してもまだ熱い股間に唇を寄せた。 舌先を伸ばして、袋から先端へ。柔らかい愛撫を下着の上から施して、その度に揺らめく腰に口角を持ち上げる。繰り返せば繰り返すほどそりたつ反応が楽しくて、サンジはついに下着の隙間からイチモツを取り出して直に握ってしまった。 「…っ、は……なに…」 ここまですれば寝グサレ男もさすがに起きる。 それでもサンジは構わずに、むしろ自分が今置かれている状況に混乱しながらも不安定なハンモックの上で上体を起こしたゾロに見せつけるように、ゆったりと舌を這わせてみせた。 「っ…おま! てめェ! 寝込み襲うたァなんつー卑怯な…」 「大声出すな。ガキ共が起きちまうぞ」 「…っ…は、なせ…」 「ムリ」 唾液をたっぷり絡ませて、先端の敏感な部分を口内におさめる。くわえながら思うのは、なんだかんだでやっぱりゾロのモノはでかいということ。これを尻に入れられる身にもなってみろ、と誰に言えるはずもない愚痴をひっそり吐き出しながら、熱く、次から次へと汁を滲ませる先端に舌を絡ませる。 「はっ…ク、ソ…てめェ……」 「…イケよ」 「っ!」 びくびくと脈動が忙しない股間にゾロの限界を悟ったサンジは、極めつけと言わんばかりに膨れ上がった袋を舌で転がして、先端を指先で引っ掻いた。 間髪入れずに熱い飛沫が放たれる。熱いのだということを足の間以外で知るのは初めてかもしれない。それを左の手で受け止めて、達したばかりの荒い呼吸を押し殺すように胸を上下させるゾロに向き直ってみる。ついにこの手で一方的に絶頂に導いたことへの達成感を滲ませたサンジの視線に気づき、ゾロは頬を相変わらず上気させたまま、まるで渾身の殺意を込めたかのように彼を睨み付けた。 「…てめェ…表出ろ。節操のねぇエロコックにゃ今すぐそのケツにぶちこんでやる」 「んな真っ赤な顔で言われても危機感ゼロだアホ。大体おれはパンツ探してんだパンツ」 「それでなんでおれがこうなってんだ」 「…さァ? 日頃の行いが悪いから?」 「てめェに言われる筋合いねーぞ!」 「がなんなっつってんだろ。騒ぐとマジでこいつら起きち…、…!」 「!」 サンジが途中で言葉を遮ったのは、白濁で濡れた左手と解放しっぱなしの股間という、人に見られたらとてもじゃないがまともな言い訳など浮かばない状況下で、チョッパーが大きく寝返りをうったからだ。 激昂すればするほどそれに比例して揺れるハンモックの上でゾロが固まる。二人して自然と息を潜め、傍らの宙に浮く小柄な山がもう動くことはないかを横目で窺う。タイミング悪く起きてしまったら、強制的に気絶させてでも目撃者となりうることを防がなければならない。 しかし暫くそのまま微動だにせずに様子見を繰り返したが、チョッパーはどうやら二人の気配に睡眠を妨害されたわけではないらしい。お菓子をたらふく食べる夢でも見ているのだろうか、時折むにゃむにゃと口元を動かして、あとはルフィのいびきほどではない寝息を立てるのみだ。 ほっと胸を撫で下ろしたのは主にゾロで、さっきの続きと言わんばかりに、どんな報復をかましてやろうかとサンジを再び睨む間際、今度は小さな衣擦れ、というより何かが落下する音が聞こえた。 二人は床へ視線を移す。 するとチョッパーのハンモックの下に、探せど探せど一向に見当たらなかったサンジのパンツがあった。 あ、と呟いたのは同時だったかもしれない。その後でサンジは思い出した。そういえば今日は洗濯日和だったから、就寝時に使うタオルケットも一緒に干したのだ。チョッパーの寝返りで今それが発見されたということは、あのカオスの満ちた洗濯カゴから引っ張り出す際に巻き込まれて紛れてしまったと考えるのが妥当だ。 「…発情するより先に探すべきとこがあったみてェだなァ?」 は! と気づいた時には既に遅し。ゾロは軽々とハンモックから飛び降りてすぐ脇に立て掛けていた刀を一本手に取った。 「ま、まァ…ほら、なんだ…おめェがされるがままにイッたせいで汚れたそのパンツもまた洗ってやるから!」 未だにチャックが開いたままのズボンから見える下着を指差して、からりと笑えば焼け石に水。ゾロは鞘から鈍く光る真剣を覗かせて、ますます額に青筋を立てた。 それがみるみる増えていく様なんて大人しく見届けていられない。 いちにのさんで甲板へ。 怒鳴りながら追ってきてくれるゾロが阿呆で本当によかったとサンジは思う。 嫌っているのなら絶対にしない、させない行為の意味を改めて問い詰められた先は、自分でも見るのが怖い。 今度はどちらに軍配が上がるか。ただそれだけに躍起になれるこの距離感が、今は心地良いのだ。 << |