抱きたい時に抱かせろ精神の何がまずいのだろうと、ゾロは常々思っている。
口のうるさいサンジはよく、ムードもへったくれもあったもんじゃねェ!と喚くが、最終的にやることは一緒なわけで、お互いにヨクなればそれで万事オーケイだと思うのだ。
 そもそも男女間で関係を持つことにだって、ゾロは特別に執着したことはない。決して性欲がないというわけでもないけれど、気が向いたら、その程度だ。相手ありきのセックスなので自分本位な行為を慎む配慮を持ってはいても、それはなんだか人間が当たり前に排泄を行うのと同じくらい、生理的な現象をただひたすらに処理する、といった体裁に近いのかもしれない。
 金に近い明るい色の髪に鼻を埋めたゾロはそこまで考えて、じゃあこいつは一体自分にとって何なんだろうと、いつも最終的にここで行き止まってしまう自分への問いかけに辿り着く。
女みたいに柔らかいわけでもない体を、どうして抱きたいと思うのか。
浮かぶ答えの一つとしては、サンジとやるのは気持ちがいいということ。始まりはいつだったか。なんだかんだで数をこなして、最中に蹴られたり殴られたりはもうずいぶん慣れっこで、自分だってやられたらやり返して。
好きだの愛してるだの、こっぱずかしい台詞を囁く映画みたいな情事とは掛け離れているというのに、じゃあどうして飽きずにそれを繰り返しているのか。
そもそも気持ちがいいと思えることにビックリだ。
野郎を抱く趣味はゾロにはなかったし、サンジに至っては抱かれる側になることなど全くもって想像していなかっただろう。まあどっちが上か下になるかで、今でも喧嘩することはあるけれど。

(タバコくせェし足癖悪ィし、取り柄は料理しかねェのにな)

 くん、と髪の匂いを嗅ぐ。
タバコと、洗い物を終えたからだろうか、ほんの少し洗剤の匂いが混じっている。
シャンプーの匂いはまだだ。だって風呂に入ろうとしていたところを取っ捕まえてきたのだから。

「おめェそんなにおれの身体抱き心地いいのか」

「んな訳あるか。もうちっと太れよ。細すぎだ」

 抱き心地は正直よくない。
かたいししっかり筋肉ついてやがるし。
 だけど妙に惹かれるのもまた事実で、それは捲り上げられたシャツの袖から覗く色の白い手首だったり、俯いた時にちらりと見えるうなじだったり、ゾロが気に入っている箇所はサンジが思っている以上に多い。
 背中に回していた手を少し下に滑らせて、ストライプのシャツを引き抜く。スラックスとの隙間から背中に両手を潜り込ませば、サンジはひくりと肩を揺らした。

「…ずいぶん過敏だな。そんなに久しぶりだったか?」

「…うるせェな。そうじゃねェ。おめェの手が冷てーからだ」

 素肌を探るように手を動かすと、耳元で息を殺すような気配が連なる。
素直に喘いでくれる声も割かし好きなほうなので、我慢してんじゃねェと言ってやるつもりでゾロが顔を上げたら、サンジは蹴りでもかましてきそうな程のふてくされた顔でこちらを見ていた。そのくせ頬はほんのりと色づいて、青い瞳は無言でそれを訴えかけた。
 だからゾロは応えてやる。期待に背く理由がないし、顔を見たらちょうど同じことがしたくなった。
キスの一つもしたいと口で言える仲じゃないのに、唇を重ねることが互いに好きだったりする。
 そう、キスをしたいと思えるのだ。そんな自分がいたことに、ゾロは何より一番ビックリしている。










「キスしろよクソヤロー」
Byラブコック

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