甘えたいとか甘えられたいとか、そんな甘酸っぱい恋愛をおれらはしてるんじゃあない、とサンジは常日頃から思っているわけだ。
そういう、つまり相手の出方にすら一喜一憂するような愛情の紡ぎ合いは絶世美女とするもので、サンジの博愛主義はレディ限定。世の女性以外に手向ける情といえば、一流コックとしてのプライドを掛けた手料理だけだろう。
 ところがどっこい、なんだって毎回こんな状況を許しちまってんだ!
 頭を悩ませるサンジは今、薄暗くてしかもちょっと埃臭い、つまり不衛生極まりない格納庫にて、女性特有の柔らかみも膨らみもあったもんじゃない、かたい筋肉に抱きつかれている。
太い腕がしっかりと背中に回っていて、それはきつく、抱擁というより締め殺されるのではないかと思うくらいの力が込められている。

(…そりゃおれは女の子じゃねェんだから、優しくしろとは言わねェが)

 だからっていつまで経っても会話もなしに、こんな状況から一歩も進まないのは我慢ならない。
そもそもが股間を蹴り上げて強制的に引き剥がせばいいだけの話なのだが、今日はちょっと悔しいことに、サンジもゾロの手で触られることに乗り気だったりしているのだ。

「…おい、苦しい」

「いてェ!」

 ピアスの少し上、左耳をぎゅうっ! と引っ張ってみる。間髪入れずの文句のわりに、その力の方向に抵抗することなくゾロの身体は若干離れた。

「おめェそんなにおれの身体抱き心地いいのか」

「んな訳あるか。もうちっと太れよ。細すぎだ」

「馬鹿言ってんな。スタイルがいい、の間違いだクソ剣士」

 いつもの罵り合いが、どうしてこんなに色めき立つのだろう。
サンジは悔しくてへの字に口を結んで、目の前の広い肩に頬を寄せる。
 イヤだなあと思う。こうして体温を互いの体で感じるほど近くにいることに、少なくない安堵を感じていることへの自覚があるから余計に頭が痛い。
 相手の気持ちなんか知ったこっちゃないんだ。
 おれ達は甘酸っぱい恋なんかしていない。
 そうサンジが再び己の中で繰り返すのは、背中に回ったままの熱い手のひらが早く身体の輪郭をなぜてくれればいいのにと思っている自分を、知っているからだ。






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